CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)について徹底解説
あずかん慢性腎臓病(CKD)は、腎機能が低下するだけでなく、全身にさまざまな合併症を引き起こします。その中でも特に重要で複雑なのが「CKDに伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」です。
この記事では、CKD-MBDの全体像を理解し、日々の看護ケアに活かせるよう、病態生理から看護のポイントまでを分かりやすく解説します。
なぜCKDで骨がもろくなるのか
CKD-MBDの病態は、腎機能の低下を起点とするリン、カルシウム、ビタミンD、PTH(副甲状腺ホルモン)の相互作用の破綻によって引き起こされます。
① 腎機能低下と高リン血症
- 腎臓の役割
健康な腎臓は、血液中の余分なリンを尿中に排泄します。 - CKDの進行
腎機能が低下すると、リンの排泄能力が低下し、血液中にリンが蓄積して高リン血症となります。
② 高リン血症が引き起こす連鎖反応
- Caとの結合
血液中の過剰なリンは、カルシウム(Ca)と結合してリン酸カルシウムとなり、血管壁などに沈着(異所性石灰化)します。これにより、血液中のカルシウム濃度は低下(低カルシウム血症)します。 - 活性型ビタミンDの産生低下
腎臓は、ビタミンDを活性型ビタミンDに変換する重要な役割を担っています。腎機能が低下すると、この変換が十分に行われなくなり、活性型ビタミンDが不足します。活性型ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を促進するため、不足するとさらに低カルシウム血症が進行します。 - FGF23の上昇
高リン血症は、骨細胞から産生されるホルモンであるFGF23の分泌を促進します。FGF23は腎臓でのリン排泄を促しますが、同時に活性型ビタミンDの産生を抑制するため、病態をさらに複雑化させます。
③ PTH(副甲状腺ホルモン)の過剰分泌
- 副甲状腺の反応
低カルシウム血症と活性型ビタミンDの低下は、首にある副甲状腺を刺激し、PTH(副甲状腺ホルモン)の分泌を過剰に促進します。これを二次性副甲状腺機能亢進症と呼びます。 - PTHの作用
PTHは、骨を溶かして(骨吸収)血中のカルシウム濃度を正常に保とうとします。この状態が慢性的に続くと、骨がもろくなり、線維性骨炎と呼ばれる状態になります。
これらの複雑な連鎖反応の結果、骨がもろくなる(骨病変)だけでなく、血管が硬くなる(血管石灰化)ことで心血管疾患のリスクも高まるのがCKD-MBDの大きな特徴です。
CKD-MBDを引き起こす主な要因
CKD-MBDの根本的な原因は腎機能の低下ですが、その背景には以下のような要因が関わっています。
リンの排泄障害: 腎機能低下による直接的な原因。
活性型ビタミンDの産生低下: 腎臓での変換能力の低下。
食事からのリン過剰摂取: 加工食品や乳製品に多く含まれるリンの摂取が、高リン血症を助長。
二次性副甲状腺機能亢進症: 低カルシウム血症や活性型ビタミンD低下に対する代償的な反応。
CKD-MBDによる症状
CKD-MBDの症状は、初期段階では無症状のことが多いですが、進行すると以下のような多様な症状が現れます。
- 骨・関節の症状
- 骨痛、関節痛: 特に腰、股関節、膝など体重がかかる部位に痛みを感じます。
- 骨折: 軽い転倒など、わずかな外力で骨折しやすくなります(脆弱性骨折)。
- 筋力の低下
- 骨や関節の痛みから活動量が低下し、筋力も衰えやすくなります。
- 皮膚のかゆみ(掻痒感)
- 高リン血症や異所性石灰化が原因とされていますが、明確な機序は解明されていません。
- 異所性石灰化に関連する症状
- 心血管系: 血管石灰化により動脈硬化が進行し、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞のリスクが高まります。
- 関節周囲: 関節周囲の石灰化による痛みや可動域制限。
- 皮膚: まれに、皮膚の小血管に石灰が沈着し、難治性の皮膚潰瘍(カルシフィラキシス)を引き起こすことがあります。
- イライラ感
- 血液中のカルシウム濃度の異常が、神経や筋肉の興奮性を高め、イライラ感やテタニー(筋肉のけいれん)を引き起こすことがあります。
治療・対症療法
CKD-MBDの治療目標は、リン、カルシウム、PTHの値を管理目標範囲内に維持し、骨病変と心血管疾患の進行を抑制することです。治療は主に食事療法と薬物療法を組み合わせて行います。
食事療法
- リン制限
最も基本となる治療です。タンパク質を多く含む食品(肉、魚、卵、乳製品)や加工食品、インスタント食品にリンは多く含まれるため、食事内容の工夫が必要です。管理栄養士による栄養指導が不可欠です。 - カルシウム管理
サプリメントなどによる過剰摂取を避けます。
薬物療法
- リン吸着薬
食事中のリンが腸管から吸収されるのを防ぐ薬です。食直前に服用することが重要です。- カルシウム含有製剤: 沈降炭酸カルシウムなど。
- 非カルシウム含有製剤: セベラマー塩酸塩、ビキサロマー、ランタン炭酸塩、クエン酸第二鉄水和物など。患者の状態に応じて使い分けられます。
- 活性型ビタミンD製剤
腸管からのカルシウム吸収を助け、PTHの分泌を抑制します。低カルシウム血症や高PTH血症が持続する場合に用いられますが、高リン・高カルシウム血症を助長するリスクがあるため慎重な投与が必要です。 - カルシウム受容体作動薬(シナカルセトなど)
副甲状腺にあるカルシウム受容体に作用し、PTHの過剰な分泌を直接抑制します。 - 外科的治療
内科的治療でコントロールできない重症の二次性副甲状腺機能亢進症に対しては、副甲状腺全摘術(PTx)が行われることがあります。
看護のポイント
正確な服薬管理と指導
- リン吸着薬の服用タイミング
「食直前」の服用がなぜ重要なのかを、リンが吸収されるプロセスと関連付けて説明し、アドヒアランス(服薬遵守)を高めます。「お守りのように持ち歩きましょう」といった具体的なアドバイスも有効です。 - 副作用のモニタリング
便秘(リン吸着薬)、消化器症状、高カルシウム血症(ビタミンD製剤)などの副作用を早期に発見し、医師に報告します。
食事療法への支援
- 食事内容のモニタリング
食事記録などを活用し、患者がリン制限を実践できているかを確認します。リン含有量の多い食品(例:「加工食品や練り物は見えないリンが多いですよ」)について具体的に情報提供します。 - 調理法の工夫
「茹でこぼし」や「水にさらす」ことで、食材のリンを減らせることを伝えます。 - 多職種連携
管理栄養士と連携し、患者の嗜好や生活スタイルに合った、継続可能な食事プランを一緒に考えます。
症状のモニタリングとアセスメント
- 疼痛管理
骨痛や関節痛の部位、程度、持続時間などを詳細にアセスメントします。鎮痛薬の効果評価も重要です。 - 掻痒感のケア
皮膚の保湿、掻き壊しによる感染予防など、スキンケアを徹底します。かゆみが強い場合は、医師に報告し、薬物療法の調整を検討してもらう必要があります。 - 精神的サポート
慢性的な痛みやかゆみは、患者のQOLを著しく低下させ、精神的な苦痛にも繋がります。傾聴を通じて、患者の思いを表出できるような関わりが求められます。
転倒・骨折の予防
- 環境整備
ベッド周りの整理整頓、滑りにくい履物の提案など、転倒リスクを低減するための環境を整えます。 - ADLの評価
ふらつきや筋力低下の程度を評価し、必要に応じて歩行補助具の使用を検討します。リハビリテーション科と連携することも重要です。
患者教育と自己管理能力の向上
CKD-MBDは生涯にわたる管理が必要です。患者自身が病気を理解し、治療に主体的に参加できるよう支援することが、看護師の重要な役割です。検査データ(P, Ca, i-PTH)の推移を一緒に確認し、治療の効果や今後の目標を共有することで、患者のセルフケア意識を高めることができます。