
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の障害が慢性的に続く状態であり、国民病とも言われています。高齢化社会の進展に伴い、患者数は増加傾向にあります。CKDは、進行すると末期腎不全に至り、透析療法や腎移植が必要となるだけでなく、心血管疾患(CVD)の強力なリスク因子でもあります。
この記事では、慢性腎臓病の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の機能が慢性的に低下していく状態を指している。健康な腎臓は、血液中の老廃物をろ過して尿として排泄したり、体内の水分量や電解質のバランスを調整したり、血圧の調整に関わるホルモンを分泌したりと、様々な重要な働きをしている。その働きがCKDの進行に伴い徐々に障害されていくと、以下ような状態を呈してくる。
ネフロンの減少と機能低下
腎臓を構成する基本的な単位であるネフロンが、高血圧、糖尿病、糸球体腎炎などの原因により損傷を受け、徐々に数を減らしていく。残ったネフロンは過剰な負担を強いられ、代償的に肥大するが、やがてその機能も低下していく。
老廃物の蓄積
腎臓のろ過機能が低下することで、通常は尿として排泄されるべき尿素窒素(BUN)やクレアチニンなどの老廃物が体内に蓄積する。これにより、倦怠感、食欲不振、吐き気などの尿毒症症状が出現してくる。
水分・電解質バランスの破綻
腎臓による水分やナトリウム、カリウム、リンなどの電解質の調整機能が障害され、浮腫、高血圧、高カリウム血症、高リン血症などを引き起こす。
ホルモン分泌異常
腎臓で産生されるエリスロポエチン(赤血球産生を促すホルモン)の分泌が低下し、腎性貧血を引き起こす。また、ビタミンDの活性化障害により、骨代謝異常(腎性骨異栄養症)が生じやすくなる。
慢性腎臓病と慢性腎不全の違い
慢性腎臓病(CKD)とは、腎臓の障害や機能低下が3ヶ月以上持続する状態の総称であり、具体的には「尿検査異常、画像診断異常、病理診断異常が3ヶ月以上持続する場合」あるいは「GFR(糸球体ろ過量)が60ml/分/1.73m²未満が3ヶ月以上持続する場合」のいずれかを満たす場合に診断される。
この慢性腎臓病(CKD)の概念は、従来の慢性腎不全(CRF)よりも早期の段階の腎障害を含み、早期発見・早期治療による心血管疾患発症や末期腎不全(ESKD)への移行を抑制する目的で提唱された。これは、ハイリスク群とステージ1~5に分類され、維持透析者や腎移植者もCKDに含まれている。




治療・対症療法
慢性腎不全の治療は、腎臓の機能回復ではなく、残存機能の維持と、症状の緩和、合併症の管理が目的となる。
保存期治療
食事療法
タンパク質制限: 老廃物の産生を抑える
塩分制限: 血圧管理と浮腫の予防
カリウム制限: 高カリウム血症の予防
リン制限: 腎性骨異栄養症の予防
水分制限: 浮腫や心不全の予防
薬物療法
降圧薬: 血圧管理(腎臓への負担軽減、心血管イベント予防)
利尿薬: 浮腫の改善
活性型ビタミンD製剤: 腎性骨異栄養症の治療
リン吸着薬: 高リン血症の改善
貧血治療薬(ESA製剤など): 腎性貧血の治療
高カリウム血症改善薬: 高カリウム血症の治療
腎代替療法
血液透析
週に2~3回、病院やクリニックで血液を体外に取り出し、人工腎臓(ダイアライザー)で老廃物や余分な水分を除去する方法
腹膜透析
自宅で患者自身が、腹腔に透析液を注入し、腹膜を介して老廃物や水分を除去する方法。
腎移植
健康な腎臓を移植する方法。最もQOLが高い治療法とされているが、ドナーの確保や免疫抑制剤の内服が必要となる。
看護のポイント
疾患の理解と自己管理の支援
患者や家族が疾患の進行、治療の必要性、合併症について正しく理解できるよう、分かりやすく説明する。
食事療法や水分制限の重要性を具体的に指導し、実行可能な工夫を共に考える。
服薬管理の徹底を促し、アドヒアランス(服薬遵守)向上のための支援を行う。
自宅での血圧測定や体重測定の習慣化を促し、異常の早期発見につなげる。
症状の観察とアセスメント
浮腫(特に下肢、顔面)の有無、程度、体重の変化を毎日観察する。
血圧の変動、不整脈の有無など循環器系の状態を観察する。
倦怠感、食欲不振、吐き気、かゆみなどの尿毒症症状の有無と程度をアセスメントする。
呼吸状態(呼吸困難感、痰の性状)を観察し、肺水腫や感染症の兆候に注意する。
皮膚の状態(乾燥、そう痒、色素沈着)を観察し、スキンケアの必要性を評価する。
精神状態(抑うつ、不安、認知機能の変化)を観察し、精神的サポートを行う。
合併症の予防と早期発見
高血圧: 血圧のモニタリングと降圧薬の内服管理を支援する。
貧血: 倦怠感の程度、顔色、眼瞼結膜の色を観察し、貧血治療の効果をアセスメントする。
骨代謝異常: 骨痛の有無、転倒リスクに注意する。
心不全: 呼吸困難感、浮腫、体重増加に注意し、心機能悪化の兆候を早期に捉える。
感染症: 易感染状態であるため、手洗い、うがいなどの感染予防策を指導し、発熱や炎症の兆候に注意する。
透析導入に向けての準備: シャント(内シャント造設部)の管理方法や、透析導入後の生活について情報提供し、患者の不安を軽減する。
心理的サポート
慢性的な疾患であり、生活制限も多いため、患者や家族は精神的ストレスを抱えやすいため、傾聴・共感的な態度で接する。
社会資源(身体障害者手帳、医療費助成制度など)の情報提供を行い、生活への不安を軽減する。
必要に応じて、精神科医やカウンセラーとの連携を検討する。