慢性糸球体腎炎について

慢性糸球体腎炎の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

慢性糸球体腎炎は、腎臓の糸球体に慢性的な炎症が起こる疾患の総称です。徐々に腎機能が低下し、最終的には末期腎不全に至る可能性もあるため、早期発見と適切な管理が非常に重要です。
この記事では、慢性糸球体腎炎の基本的な知識から、臨床で役立つ看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

慢性糸球体腎炎とは

腎臓は、血液をろ過して尿を作る臓器であり、その中心的な役割を担っているのが「糸球体」です。この糸球体は毛細血管の塊で、血液中から老廃物や余分な水分をこし取り、原尿としてボーマン嚢へ送り出します。
慢性糸球体腎炎では、この糸球体に持続的な炎症が起こります。炎症の原因は様々ですが、多くは免疫反応の異常が関与していると考えられています。

炎症のプロセス

1.免疫複合体の沈着
細菌やウイルスなどの抗原と、それに対する抗体が結合した「免疫複合体」が糸球体に沈着します。
2.補体の活性化
沈着した免疫複合体が引き金となり、免疫システムの一部である「補体」が活性化されます。
3.炎症細胞の浸潤
活性化された補体が、好中球やマクロファージといった炎症細胞を呼び寄せます。
4.糸球体の損傷
集まった炎症細胞がサイトカインや活性酸素などを放出し、糸球体の細胞(メサンギウム細胞、内皮細胞など)や基底膜を損傷します。

この炎症が慢性的に続くことで、糸球体は徐々に硬化(線維化)し、ろ過機能が失われていきます。その結果、腎機能が低下し、体内に老廃物や余分な水分が蓄積してしまうのです。


慢性糸球体腎炎の原因

一次性(原発性)糸球体腎炎

最も多いのがIgA腎症です。これは、免疫グロブリンの一種であるIgAが糸球体のメサンギウム領域に沈着することで発症します。その他、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症などがあります。

二次性糸球体腎炎

何らかの全身性疾患が原因で発症するものです。

  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
    自己抗体が全身の臓器を攻撃する自己免疫疾患。腎臓が侵されるとループス腎炎と呼ばれます。
  • 糖尿病
    高血糖が続くことで血管が障害され、糖尿病性腎症を引き起こします。
  • アレルギー性紫斑病(IgA血管炎)
    全身の細い血管に炎症が起こる疾患で、IgA腎症と類似した病変が見られます。
  • 感染症
    B型・C型肝炎ウイルス、HIVなどの感染が原因となることがあります。

慢性糸球体腎炎の症状

慢性糸球体腎炎は、初期には自覚症状がほとんどありません。多くは健康診断などの尿検査異常で発見されます。進行すると、以下のような症状が現れます。

蛋白尿
糸球体のろ過機能が障害され、本来なら尿にほとんど排出されないアルブミンなどのタンパク質が漏れ出てしまいます。泡立ちの多い尿が特徴です。
血尿
糸球体の毛細血管が損傷し、赤血球が尿中に漏れ出します。見た目では分からない「顕微鏡的血尿と、目で見て分かる「肉眼的血尿があります。
浮腫
蛋白尿によって血液中のアルブミンが減少すると、血管内の水分を保持する力(膠質浸透圧)が低下し、水分が血管外に漏れ出てむくみが生じます。特に、まぶたや足に現れやすいです。
高血圧
腎機能の低下により、体内の水分・ナトリウムの排泄が滞ったり、血圧を上げるホルモン(レニン)の分泌が亢進したりすることで高血圧をきたします。高血圧はさらに腎臓に負担をかける悪循環に陥ります
腎機能低下に伴う症状
さらに進行すると、倦怠感、食欲不振、貧血、吐き気などの尿毒症症状が現れます。


治療・対症療法

治療の主な目的は、病気の進行を抑制し、腎機能をできるだけ長く維持することです。原因疾患や病気の活動性に応じて、様々な治療法が選択されます。

原因療法(寛解導入療法)

病気の活動性が高い場合に行われる、炎症を抑えるための治療です。

  • ステロイド療法
    副腎皮質ステロイド薬を用いて、免疫反応と炎症を強力に抑制します。IgA腎症やループス腎炎などで中心的な役割を果たします。
  • 免疫抑制薬
    ステロイドだけでは効果が不十分な場合や、副作用でステロイドが使えない場合に併用されます。シクロホスファミド、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、シクロスポリンなどが用いられます。
  • 扁桃摘出術+ステロイドパルス療法
    IgA腎症に対して行われることがある治療法です。扁桃が病気の活動性に関与していると考えられています。
  • 生物学的製剤
    特定の免疫分子を標的とする薬剤で、難治性のループス腎炎などにリツキシマブなどが使用されることがあります。

対症療法(寛解維持・腎保護療法)

病気の進行を緩やかにし、腎臓を保護するための治療です。

  • 食事療法
    • 減塩: 高血圧や浮腫を改善し、腎臓への負担を軽減します。1日6g未満が目標です。
    • タンパク質制限: 腎機能が低下した場合に、体内の老廃物(尿素窒素など)の産生を抑えるために行われます。ただし、過度な制限は栄養状態の悪化を招くため、医師や管理栄養士の指導のもと、適切な量を摂取することが重要です。
  • 薬物療法
    • 降圧薬: 高血圧は腎機能低下の大きなリスク因子です。特に、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、降圧作用に加えて腎保護作用も期待できるため、第一選択薬として用いられます。
    • 抗血小板薬・抗凝固薬: 糸球体内の血液凝固を防ぐ目的で使用されることがあります。
    • 利尿薬: 浮腫や高血圧のコントロールのために使用します。

腎代替療法

腎機能が著しく低下し、末期腎不全に至った場合には、生命を維持するために腎代替療法が必要となります。

  • 血液透析
  • 腹膜透析
  • 腎移植

看護のポイント

正確な状態把握とアセスメント

  • バイタルサイン: 特に血圧のモニタリングは重要です。降圧薬の効果や副作用を評価します。
  • 体重・水分出納: 浮腫の状態や体液量のバランスを把握します。体重の急激な増加は、体液貯留を示唆します。
  • 検査データ: 尿検査(蛋白、潜血)、血液検査(クレアチニン、BUN、アルブミン、電解質など)の推移を観察し、腎機能の変化や栄養状態をアセスメントします。
  • 自覚症状: 倦怠感、食欲不振、皮膚のかゆみなどの尿毒症症状の有無を確認します。

安楽の確保と苦痛の緩和

  • 浮腫に対するケア: 安静時は下肢を挙上する、弾性ストッキングを使用するなどして、循環を促進し苦痛を和らげます。皮膚が脆弱になっているため、スキンケアも重要です。
  • 倦怠感に対するケア: 活動と休息のバランスを考えた日常生活の援助を行います。

自己管理に向けた教育・支援

  • 食事療法: なぜ減塩やタンパク質制限が必要なのかを分かりやすく説明し、継続できるよう具体的な方法(調理の工夫、外食時の注意点など)を一緒に考えます。管理栄養士と連携することが不可欠です。
  • 薬物療法: 処方された薬の役割、飲み方、注意すべき副作用について説明します。アドヒアランス(服薬遵守)を維持できるよう支援します。
  • 生活上の注意点
    • 感染予防: 感染症は病状を悪化させる誘因となります。手洗いやうがい、人混みを避けるなどの基本的な感染対策の重要性を伝えます。
    • 過労の回避: 身体的なストレスも腎臓に負担をかけるため、十分な休息をとるよう指導します。
    • 体重・血圧測定: 自宅でのモニタリングを習慣づけ、記録してもらうことで、病状の変化に早く気づくことができます。

精神的・心理的サポート

慢性疾患であること、食事制限があること、将来的に透析になる可能性があることなどから、多くの患者が不安やストレスを抱えています。

  • 傾聴: 患者や家族の思い、不安を傾聴し、共感的な態度で関わります。
  • 情報提供: 病状や治療方針について、医師の説明を補足し、患者が理解・納得して治療に取り組めるように支援します。
  • 多職種との連携: 医師、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、多職種と連携し、チームで患者さんを支える体制を整えます。
参考資料
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