市中肺炎(CAP)について

市中肺炎(CAP)について|病態生理から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

市中肺炎は、日常診療で最も遭遇する頻度の高い呼吸器感染症の一つです。高齢化に伴い、誤嚥性肺炎との鑑別や重症化リスクの評価が重要視されています。
この記事では、市中肺炎の知っておくべき基礎知識から実践的なケアまでを詳しく解説します。

目次

なぜ肺炎が起こるのか

市中肺炎とは、「病院外で日常生活を送っている人に発症した肺炎」のことです。

通常、ヒトの気道には、異物や細菌を体外へ排出する防御機能(咳反射、粘液線毛輸送系、肺胞マクロファージなど)が備わっています。しかし、以下の2つのバランスが崩れた時に肺炎が成立します。

宿主側の防御機能の低下
加齢、喫煙、基礎疾患(糖尿病、COPDなど)、免疫抑制状態などにより、異物を排除できなくなる。

病原体の侵入・増殖
感染力の強い細菌やウイルスが大量に肺胞内に吸入(inhalation)あるいは誤嚥(aspiration)され、炎症を引き起こす。

炎症が起こると肺胞内に浸出液が貯留し、酸素と二酸化炭素のガス交換が阻害され、低酸素血症を引き起こします。

これが呼吸不全へとつながるメカニズムです。

主な起炎菌と特徴

市中肺炎の原因微生物(起炎菌)は多岐にわたりますが、頻度の高い代表的なものを押さえておくことが重要です。

1. 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae

  • 特徴: 市中肺炎の原因として最も多い(約20〜30%)。急激な発症、高熱、悪寒戦慄が特徴。
  • 喀痰: 鉄錆色の痰が特徴的。
  • 注意点: 重症化しやすく、菌血症や敗血症へ移行するリスクがある。

2. インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae

  • 特徴: COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの基礎疾患がある患者に多い。
  • 注意点: インフルエンザウイルスとは別物。冬場だけでなく通年見られる。

3. マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae

  • 特徴: 若年層や小児に多い「非定型肺炎」の代表格。頑固な乾性咳嗽(空咳)が長引く。
  • 注意点: β-ラクタム系抗菌薬が無効(細胞壁を持たないため)。マクロライド系やキノロン系が選択される。

4. クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae

  • 特徴: マイコプラズマ同様、非定型肺炎の一つ。高齢者にも比較的多く、症状は軽いが長引きやすい。

5. レジオネラ(Legionella pneumophila

  • 特徴: 温泉施設や循環式浴槽、冷却塔水などが感染源。
  • 注意点: 進行が早く、意識障害や肝機能障害、低ナトリウム血症などの肺外症状を伴いやすい。重症化リスクが高く緊急性が高い。

定型肺炎と非定型肺炎の違い

市中肺炎は、症状の出方によって「細菌性肺炎(定型)」と「非定型肺炎」に分類される傾向があります。

症状・所見細菌性肺炎(定型)非定型肺炎(マイコプラズマ等)
発症様式急激に発症する比較的緩やかに発症する
年齢層高齢者や基礎疾患あり若年層〜壮年層に多い
咳嗽湿性咳嗽(痰が絡む)乾性咳嗽(コンコンという空咳)
喀痰黄色、膿性、鉄錆色など少量、粘液性、または無し
発熱38℃以上の高熱、悪寒微熱〜高熱まで様々
胸部聴診Coarse crackles(水泡音)異常なし、または軽微なラ音
全身症状呼吸困難、胸痛、倦怠感頭痛、関節痛、倦怠感
白血球数10,000/μL以上になることが多い正常範囲〜軽度上昇

※高齢者の場合、発熱や咳などの典型的症状が出にくく、「食欲不振」「元気がない」「意識レベルの低下(せん妄)」のみで来院し、肺炎と診断されるケースも多いため注意が必要です。


治療・対症療法

治療の基本は、重症度分類(A-DROPシステムなど)に基づき、外来治療か入院治療かを決定した後、適切な抗菌薬を投与することです。

薬物療法(抗菌薬)

  • エンピリック・セラピー(経験的治療)
    起炎菌が特定されるまでの間、想定される菌に有効な抗菌薬(広域スペクトル)を投与します。
    • 例:β-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系)、マクロライド系、ニューキノロン系など
  • デ・エスカレーション
    喀痰培養などの結果判明後、特定の菌に効果が高い狭域スペクトルの抗菌薬へ変更します(耐性菌抑制のため)。

対症療法

  • 酸素療法: SpO2低下時、鼻カニューレやマスクで酸素投与を行い、組織への酸素供給を維持します。
  • 去痰療法: 去痰薬の投与やネブライザー吸入を行い、痰の排出を促します。
  • 輸液療法: 発熱や食欲不振による脱水の補正を行います。

重症度分類に使用されるA-DROPシステム

項目日本語判定基準(チェック項目)
AAge
(年齢)
男性 70歳以上女性 75歳以上
DDehydration
(脱水)
BUN 21mg/dL以上、または 脱水所見あり
(皮膚・粘膜の乾燥、尿量減少など)
RRespiration
(呼吸状態)
SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)
OOrientation
(意識障害)
意識障害あり
(JCS 1桁以上、またはGCS 14点以下)
※場所や日時がわからない、会話がかみ合わないなど
PPressure
(血圧)
収縮期血圧 90mmHg以下

重症度分類と治療の場の目安

上記の5項目のうち、該当する数(点数)によって重症度が決定され、推奨される治療場所が異なります。

該当数(点数)重症度治療の場の目安
0点軽症外来治療
1~2点中等症外来 または 入院治療
※患者背景や自宅での介護力などを考慮して判断
3点重症入院治療
4~5点超重症ICU(集中治療室)入院
ショック超重症A-DROPの点数に関わらず、ショック状態(血圧低下、チアノーゼ、発汗など)があればICU入院を推奨

看護のポイント

呼吸状態の観察(フィジカルアセスメント)

  • 呼吸数・パターン: 頻呼吸、努力呼吸(陥没呼吸、鼻翼呼吸)の有無。
  • SpO2・チアノーゼ: 低酸素状態の早期発見。
  • 聴診: 副雑音(ラ音)の位置と変化、呼吸音の減弱の有無。
  • 排痰状況: 痰の色、性状、量、喀出の可否。

気道クリアランスの援助

  • 体位ドレナージ: 患側を上にすることで、重力を利用して排痰を促す。ただし、患側の換気血流比不均衡のリスクもあるため、SpO2を見ながら調整する。
  • 水分摂取の推奨: 脱水は痰を粘稠にし、喀出困難を招くため、適度な加湿と水分補給を行う。
  • 効果的な咳介助: 創部痛などがある場合は、クッションで固定(スプリンティング)して咳を促す。

安楽な体位の工夫

  • ファーラー位(半坐位): 横隔膜を下げ、肺の拡張を助けるため、呼吸が楽になります。
  • 早期離床: 安静による廃用症候群を防ぐため、状態が安定し次第、座位保持や歩行を開始します。

感染予防と患者教育

  • 標準予防策(スタンダードプリコーション): 手指衛生の徹底。
  • 飛沫感染対策: インフルエンザやマイコプラズマなど飛沫感染する菌の場合は、サージカルマスク着用や個室隔離を検討。
  • ワクチン接種の啓蒙: 退院指導として、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種を推奨する。
  • 口腔ケア: 口腔内常在菌による二次的な誤嚥性肺炎を防ぐため、口腔内を清潔に保つ。
参考資料
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