
大腿骨頭壊死症は、股関節の付け根にある大腿骨頭の一部が、血流の低下によって壊死に陥る病気です。30代〜50代の比較的若い世代に発症することが多く、国の指定難病の一つです。壊死した骨は強度を失うため、体重がかかることで圧潰し、激しい痛みや機能障害を引き起こします。この記事では、大腿骨頭壊死症の病態生理から看護のポイントまでを詳しく解説します。
症候性大腿骨頭壊死症と特発性大腿骨頭壊死症
症候性大腿骨頭壊死症
特定の原因がはっきりしているもの。
主な原因: ステロイド薬の使用(特に長期間・大量)、アルコール摂取、外傷(大腿骨頚部骨折など)、減圧症(潜水病)、特定の血液疾患などがある。
特発性大腿骨頭壊死症
明確な原因が特定できないもの。
厚生労働省の特定疾患に指定されており、難病の一つとされている。
原因不明のため、治療は壊死の進行を抑えることや、痛みなどの症状を緩和することに重点が置かれる。
症状は荷重時や運動時の股関節痛などで特異的なものはなく、初発の疼痛は2~3週間で軽快することが多い。
壊死があるだけでは症状は生じず、圧潰し始めて症状が現れる。
両側性の発生は全体の約50%で、ステロイド性の患者では約70%で両側に発生する。(約10%の患者では、上腕骨頭や大腿遠位端などにも骨壊死の発症がみられる)
男性はアルコール性、女性はステロイド性(特にSLE患者)が多く、好発年齢は30~40歳代の壮年期である。
大腿骨頭壊死症の分類
Stage1 | 壊死はあるが、レントゲンでは異常が認められない段階。MRI検査などで発見されることがある。 |
Stage2 | レントゲンで骨頭の嚢胞(骨の中にできる空洞)や硬化(骨が硬くなる)が認められるが、骨頭の形態は保たれている段階。 |
Stage3 | 骨頭の圧潰が起こっている段階。圧潰の程度によってさらに細かく分類される。 <病型分類> Stage 3A: 圧潰が軽度 Stage 3B: 圧潰が中等度 Stage 3C: 圧潰が高度 |
Stage4 | 骨頭が著しく変形し、股関節全体に変形性関節症の変化が及んでいる段階。 |
治療方法
大腿骨頭壊死症の治療法は、病気の進行度や患者の年齢、活動度などによって異なってくる。
保存療法
安静
股関節への負担を減らすために、減量や杖の使用や免荷(体重をかけないこと)を行う。
薬物療法
痛みに対して、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが処方される。骨壊死の進行を抑制するために、骨粗鬆症の治療薬が用いられることもある。
理学療法
股関節の可動域を維持したり、周囲の筋肉強化をしたりするための運動を行う。
減量、筋力強化訓練、鎮痛薬の使用、杖の使用 を組み合わせながら、壊死部分を免荷した状態で経過観察を行っていく。ただし、荷重部分の壊死は修復されないため、疼痛コントロールが困難になる場合は手術治療となる。
手術療法
関節温存手術(内反骨切り術/骨頭回転骨切り術など)
・比較的若年(50歳前後まで)
・壊死範囲がある程度局限されている
・関節症があまり進行していない
骨切りをし、荷重部に健常骨をもってくるように位置をずらして再固定する手術
人工骨頭置換術/人工股関節全置換術
・関節温存手術ができない場合の手術
大腿骨頭、もしくは寛骨臼も人工材料で置換する手術
看護のポイント
疼痛管理
痛みの程度、部位、性質、増悪・寛解因子を詳細にアセスメントし、医師の指示に基づき、適切な鎮痛薬の投与を行う。また安楽な体位の工夫や、必要に応じて温罨法・冷罨法などを検討します。
安静・活動制限の支援
疾患や治療法に応じた安静度を理解し、患者が安全に過ごせるよう支援する。入院中は、ベッド上での体位変換や離床時の介助を適切に行いながら、杖や松葉杖などの歩行補助具の正しい使用方法を指導し、転倒予防に努める。
ADLの維持・向上
痛みに配慮しながら、更衣、入浴、排泄などのADLが自立できるよう支援し、必要に応じて、自助具の活用や環境調整を提案する。
手術を受けた患者に対しては、術後のリハビリテーションへの意欲を高め、安全に運動が行えるようサポートする。
精神的なサポート
痛みや活動制限による不安、抑うつ、ADLの変化に対する戸惑いなど、患者の精神的な側面にも配慮が必要である。
病気や治療について分かりやすく説明し、患者が主体的に治療に参加できるよう支援し、患者会や家族のサポートなど、社会的な資源の活用も提案する。
合併症の予防
長期臥床による深部静脈血栓症や肺炎などの合併症予防に努める。また人工股関節置換術後の脱臼予防のための体位制限や、感染兆候の観察も重要となってくる。
退院支援・在宅療養の調整
退院後の生活を見据え、自宅環境の確認や必要な介護サービスの調整を行う。
継続的なリハビリテーションの必要性や、外来受診の重要性を説明する。