多発性のう胞腎について

多発性のう胞腎(ADPKD)の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

多発性のう胞腎(ADPKD)は、腎臓に多数の「のう胞」と呼ばれる液体が詰まった袋ができて、腎機能が徐々に低下していく遺伝性の疾患です。
この記事では、多発性のう胞腎の患者さんを受け持つ際に知っておくべき、病態生理から具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。


目次

腎臓で何が起こっているのか

多発性のう胞腎は、腎臓の尿細管を構成する細胞の遺伝子変異によって引き起こされます。この変異により、尿細管の上皮細胞が異常に増殖し、尿細管の一部が風船のように膨らんで「のう胞」を形成します。腎臓が腫大するため、腹部が膨隆し、患者によっては腹痛や圧迫感の原因となります。

のう胞の成長
のう胞は一つできると、その内部に液体が溜まり、時間とともに数が増え、サイズも大きくなっていきます。
正常組織の圧迫
増大した多数ののう胞が、周囲の正常な腎組織や血管を圧迫します。
腎機能の低下
圧迫によって腎臓の血流が悪化し、正常な組織が線維化を起こすことで、ろ過機能が徐々に失われ、末期腎不全に至る可能性があります。


ADPKDはなぜ発症するのか

多発性のう胞腎は遺伝性疾患であり、そのほとんど(約95%)が常染色体優性遺伝(顕性遺伝)の形式をとります。

  • PKD1遺伝子・PKD2遺伝子: 原因となる遺伝子は主に2種類あり、PKD1遺伝子の変異が約85%、PKD2遺伝子の変異が約15%を占めます。
  • 遺伝の確率: 親の一方がこの疾患である場合、子どもに遺伝する確率は性別に関わらず50%です。
  • 突然変異: 約5%の患者では、両親に既往がなく、突然変異によって発症することがあります。

遺伝的背景を持つため、患者の家族歴を聴取することは、診断やケアプランを考える上で非常に重要です。


どのようなサインに注意すべきか

多発性のう胞腎の症状は、腎機能が低下する前から現れることがあります。主な症状は以下の通りです。

カテゴリ具体的な症状備考
腎臓に関連する症状血尿、腹痛・側腹部痛、腹部膨満感、腹部腫瘤の触知のう胞の出血や感染、増大による圧迫が原因。
高血圧頭痛、めまい、肩こりなど最も早期から見られる合併症の一つ。腎機能低下を促進するため、厳格な管理が重要。
腎機能低下による症状貧血、倦怠感、浮腫、夜間頻尿進行すると見られる尿毒症の症状。
腎臓以外の合併症脳動脈瘤、肝のう胞、心臓弁膜症(僧帽弁逸脱症など)、大腸憩室特に脳動脈瘤はくも膜下出血のリスク因子となるため、注意深い観察とスクリーニング検査が必要。

これらの症状は、患者のQOLに大きく影響します。看護師は、これらのサインを早期に発見し、医師に報告する役割を担います。


治療・対症療法

現在のところ、多発性のう胞腎を完治させる治療法はありません。そのため、治療の目標は病気の進行を抑制し、合併症を管理し、腎機能をできるだけ長く維持することになります。

根本的治療薬

  • トルバプタン(サムスカ®): バソプレシンV2受容体拮抗薬で、のう胞の増大や腎機能の低下を抑制する効果が示されています。早期からの内服が推奨されますが、口渇や多尿、肝機能障害などの副作用に注意が必要です。

対症療法

  • 血圧管理: 腎機能保護のために最も重要です。ACE阻害薬やARBが第一選択薬として用いられます。目標血圧は患者の状態によりますが、厳格なコントロールが求められます。
  • 食事療法
    • 減塩: 高血圧や浮腫の管理のために重要です(1日6g未満が目安)。
    • 水分摂取: トルバプタン内服中は脱水を防ぐため、十分な水分摂取(1日4〜5L以上)が必要です。一方、腎機能が低下し浮腫や心不全がある場合は、水分制限が必要になることもあります。
    • タンパク質制限: 腎機能の低下度に応じて検討されます。
  • 感染症の治療: のう胞感染が起きた場合は、抗菌薬による治療が行われます。
  • 腎代替療法: 末期腎不全に至った場合は、血液透析、腹膜透析、腎移植が必要となります。

看護のポイント

血圧の観察と管理

  • 正確な血圧測定: 定期的に血圧を測定し、変動を記録します。家庭血圧の測定を指導し、記録を持参してもらうことも有効です。
  • 降圧薬の服薬指導: 処方された薬を確実に内服できるよう、作用・副作用を説明し、服薬の重要性を伝えます。
  • 生活習慣の指導: 減塩食や適度な運動など、血圧管理につながる生活習慣を一緒に考え、継続できるよう支援します。

症状の観察とアセスメント

  • 腹部症状: 腹痛や腹部膨満感の有無、程度、部位を確認します。急激な痛みは、のう胞出血や感染のサインかもしれません。
  • 尿の性状: 血尿の有無や色調を観察します。
  • 脳動脈瘤の症状: 激しい頭痛、嘔吐、意識障害など、くも膜下出血を疑う症状がないか注意深く観察します。

水分・食事管理のサポート

  • トルバプタン内服中のケア: 多尿による脱水を防ぐため、水分摂取の重要性を繰り返し説明します。夜間の頻尿で睡眠が妨げられることもあるため、生活リズムに合わせた水分摂取の工夫(就寝前は控えるなど)を一緒に考えます。
  • 食事指導の徹底: 管理栄養士と連携し、患者一人ひとりの腎機能や生活スタイルに合わせた具体的な食事療法(減塩の工夫など)を指導します。

精神的・心理的サポート

  • 不安の傾聴: 疾患の進行や将来への不安、遺伝に関する悩みなどを傾聴し、患者や家族の気持ちに寄り添います。
  • 情報提供: 疾患や治療について、分かりやすい言葉で正確な情報を提供し、患者が自身の治療に主体的に参加できるよう支援します。
  • 遺伝カウンセリングの紹介: 遺伝に関する悩みを持つ患者や家族には、遺伝カウンセリングという選択肢があることを伝えます。
参考資料
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