せん妄について

せん妄について|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

夜間、ナースコールも押さずに突然大声を出したり、点滴のルートを引っ張っていたり、「ここはどこだ、家に帰る」と落ち着かない様子の患者さんに対応した経験、誰しも一度はあるんじゃないでしょうか。

このとき、「この人はもともと認知症があるから」と安易に片付けてしまうのは、実はとても危険な思考停止です。せん妄は、手術後、感染症、脱水、電解質異常、薬剤性など、あらゆる急性疾患・治療の場面で発症しうる「可逆的な急性脳機能障害」であり、その背景には必ず何らかの身体的な原因が潜んでいます。せん妄を「一過性の混乱」で終わらせず、「今、体の中で何が起きているサインなのか」という視点で捉えられるようになると、アセスメントの質が一段階変わりますよ。今日はせん妄の原因検索の視点から、具体的な対応まで整理していきます。


目次

サクッと復習!症状の概要

せん妄とは、身体疾患や薬剤、手術侵襲などを直接原因として急性に発症する、意識障害を基盤とした認知機能の変動です。認知症とは異なり、急性発症・症状の動揺性(日内変動)・可逆性が大きな特徴です。

せん妄の原因は、臨床では「直接因子」「準備因子」「促進因子」の3つに分けて整理するのが基本になります。

直接因子:脱水、電解質異常(Na、Ca異常など)、感染症(尿路感染、肺炎)、低酸素血症、薬剤性(ベンゾジアゼピン系、オピオイド、抗コリン薬など)、術後侵襲、脳血管障害
準備因子:高齢、認知症の既往、脳器質性疾患の既往
促進因子:入院による環境変化、身体拘束、睡眠妨害、感覚遮断(眼鏡や補聴器の未使用)、疼痛コントロール不良

症状は、過活動型(興奮・不穏・幻覚が目立つ)、低活動型(傾眠傾向で見逃されやすい)、混合型の3つの臨床型に分類され、特に低活動型は「大人しくなっただけ」と見過ごされやすく、予後不良との関連も指摘されているため注意が必要です。

治療は、まず原因となっている直接因子の除去・治療が最優先であり、対症療法として非薬物療法(環境調整、リアリティオリエンテーション)が第一選択、興奮が強く安全確保が困難な場合に限り抗精神病薬などの薬物療法が慎重に検討されます。


観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
意識レベルと注意力の変動JCS・GCSでの評価に加え、「100から7を順番に引いてもらう」「今日の日付を尋ねる」といった注意力・見当識のテストを、日勤帯だけでなく夕方・夜間にも複数回実施し、時間ごとの変化を記録する。せん妄の核心症状は「注意の障害」と「意識の変動」です。1回の評価だけで「大丈夫そう」と判断せず、時間帯によるブレを追うことで、認知症のベースラインからの「急性変化」を客観的に捉えることができます。
バイタルサインと感染徴候体温だけでなく、脈拍数の増加、呼吸数の増加、SpO2の低下がないかをセットで評価する。尿の混濁や悪臭、喀痰の膿性化など、感染巣を疑う所見も併せてチェックする。せん妄の直接因子として頻度が高いのが尿路感染症や肺炎などの感染症です。発熱がなくても、高齢者では非定型的な症状(発熱なきまま頻脈やSpO2低下のみ出現)として現れることも多く、バイタルの複合的な変化を見逃さない視点が重要です。
水分出納バランスと電解質データIn-Outバランスを24時間単位で計算し、皮膚のツルゴール低下や口腔粘膜の乾燥がないか触診で確認する。血液データのNa、K、Ca、BUN/Cr比の推移も追う。高齢者は口渇中枢の感受性が低下しており、脱水が進行していても本人が「喉が渇いた」と訴えないことが多いです。脱水による循環血液量減少や電解質異常は、脳の恒常性を直接乱し、せん妄の重要な引き金になります。
服薬内容の変更履歴直近1週間以内に開始・増量された薬剤がないか、お薬手帳や指示簿を遡って確認する。特にベンゾジアゼピン系睡眠薬、オピオイド系鎮痛薬、抗コリン作用のある薬剤(一部の抗ヒスタミン薬など)に注目する。せん妄の直接因子として、薬剤性は非常に頻度が高く、かつ「見落とされやすい」原因です。「新しく眠剤が始まった翌日から様子がおかしい」といったタイミングの一致は、薬剤性せん妄を強く疑う重要な手がかりになります。
疼痛の有無とスケール評価言語的訴えが難しい患者さんには、表情、体動、発汗の有無からNRSやFace Scale、あるいはPAINADスケールを用いて疼痛を数値化する。コントロール不良の疼痛は、それ自体がせん妄の促進因子になります。「言葉で訴えられないから痛みはない」と判断せず、非言語的サインから疼痛の存在を積極的に疑う視点が、せん妄の悪化を防ぐ鍵になります。

もし患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?

せん妄の過活動型では、「ここにいたら殺される、早く家に帰らないと」といった被害妄想的な発言が出ることが少なくありません。ここで「そんなことありませんよ、大丈夫ですから」と表面的に否定したり、逆に興奮を鎮めようと強い口調で制止したりするのは、患者さんの恐怖心をさらに増幅させてしまいます。

言葉の裏にあるニード
「自分の置かれている状況が正しく認識できず、強い恐怖や不安の中にいる」という切実な心理的ニードが隠れています。同時に、その恐怖の背景に「せん妄を引き起こしている身体的な苦痛(低酸素、疼痛、尿閉など)」が存在している可能性も、常に頭の片隅に置いておく必要があります。

対応アクションと会話例

まず患者さんの目線の高さまで体を低くし、穏やかなトーンで、今いる場所や自分の役割を繰り返し伝えるリアリティオリエンテーションを行います。

患者さん:「ここにいたら殺される、早く家に帰らないと」

看護師:「怖い思いをさせてしまってすみません。ここは〇〇病院の病棟で、私は担当看護師の〇〇です。〇〇さんの安全は私たちが必ず守りますので、少しお話を聞かせてもらえますか」

患者さん:「本当に大丈夫なのか」

看護師:「はい、大丈夫です。今、体のどこかに痛いところや、苦しいところはありませんか?」

このように、恐怖の訴えそのものを否定せず受け止めながら、「安全である」という事実を繰り返し伝え、同時に身体的な苦痛の有無を確認する流れを作ると、患者さんは少しずつ現実を受け入れやすくなります。また、この会話の中で得られた情報(痛み、呼吸苦、排尿困難感など)が、せん妄の直接因子を特定する重要な手がかりになることも多いですよ。


現場で差がつく看護のコツ

工夫・アイデア具体的な方法それによる効果
入院時からの「せん妄予防チェックリスト」の活用入院時に眼鏡・補聴器の使用状況、普段の睡眠パターン、認知機能の既往(HDS-Rの点数など)を必ず情報収集し、リスクの高い患者さんをカンファレンスで事前に共有しておく。せん妄は「起きてから対応する」より「起こさない予防」の方が圧倒的に有効です。リスクの高い患者さんを事前に把握しておくことで、術後や入院後の観察頻度を意図的に増やすなどの先手が打てます。
昼夜のメリハリをつける環境調整日中はカーテンを開けて日光を取り入れ、離床時間を意識的に確保する。夜間は消灯時間を守り、バイタル測定や点滴交換のタイミングをできるだけまとめて、睡眠を分断しないよう工夫する。せん妄の促進因子である概日リズムの乱れに直接アプローチする方法です。昼夜のメリハリをつけることで体内時計が整いやすくなり、夜間の不穏発症リスクの軽減が期待できます。
「見える化」による見当識の補強ベッドサイドに大きな文字の日めくりカレンダーや時計を設置し、面会時の家族写真を飾ってもらう。訪室時には毎回「〇月〇日の〇時です」と自然な形で声かけに含める。視覚的な情報を常に提示しておくことで、患者さん自身が能動的に見当識を保とうとする助けになります。毎回の声かけに時間や日付をさりげなく織り込むことで、押し付けがましくない自然なリアリティオリエンテーションが実現できます。
身体拘束前の「代替案リスト」の検討ルート類の自己抜去リスクがある場合、すぐに抑制を検討するのではなく、点滴を目に入りにくい位置(背部や下肢)に変更する、離床センサーを設置する、家族に付き添いを依頼するなど、複数の代替案を先に試す。身体拘束そのものが強い促進因子となり、せん妄を悪化させる悪循環を生みます。抑制ありきで考えるのではなく、「なぜ触ってしまうのか」という患者さんの視点に立って代替案を先に試す姿勢が、結果的にせん妄の遷延化を防ぎます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんが本当に陥りやすいのが、「不穏=過活動型のイメージ」に引っ張られすぎて、低活動型のせん妄を見逃してしまうということです。

大声を出したり点滴を抜こうとしたりする患者さんには「せん妄かも」とすぐに気づけても、逆に「昨日まで会話していたのに、今日は妙にぼーっとして反応が薄い」「食事にも手をつけず、ずっとうとうとしている」といった患者さんに対しては、「疲れているのかな」「認知症が進んだのかな」で片付けてしまいがちなんですよね。

でも実際は、低活動型のせん妄は過活動型よりも頻度が高いとされていて、しかも見逃されやすい分、原因となっている身体疾患の発見が遅れるリスクをはらんでいます。

新人の頃は、「不穏」という派手な症状にばかり目が行って、静かな変化のサインを「まあ大丈夫だろう」と流してしまうことがどうしても多くなります。でも、「いつもと違う静けさ」もせん妄のサインの一つだという視点を持っておくと、「あれ、今日はやけに大人しいな」と感じた瞬間に、バイタルや尿量、血液データを一度見直してみる習慣がつきます。この「静かな変化にこそ立ち止まる」という感覚は、意識して積み重ねていくことでしか身につかない部分だと思うので、焦らず一つ一つの受け持ちの中で磨いていってもらえたらと思います。


参考資料

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