アテローム性脳梗塞について

目次

アテローム性脳梗塞とは

高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの生活習慣病や加齢により、血管の内壁が慢性的な炎症を起こす。この炎症がきっかけで、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などが血管壁に入り込み、マクロファージがこれを取り込むことで「泡状細胞」となる。これらの細胞が集積し、線維性の組織で覆われることで、血管の内側に盛り上がった「プラーク(粥腫)」が形成され、アテロームとも呼ばれる。

プラークは大きくなるにつれて、血管の内腔を狭め、血流が悪くなっていく。不安定なプラークは、血流の圧力や炎症などによって破裂(破綻)しやすくなり、プラークが破綻すると、その修復のために血小板が集まり、フィブリンなどと結合して血栓が形成される。形成された血栓が血管を完全に閉塞してしまうと、その先の脳組織への血流が途絶え、脳細胞が壊死する。これがアテローム血栓性脳梗塞の発生機序である。

プラークは、比較的太い血管や、血管が分岐する部分など、血流の乱れが生じやすい部位に形成されやすい傾向があり、具体的には、頸動脈(総頸動脈分岐部)、中大脳動脈の主幹部、椎骨動脈、脳底動脈などが挙げられる。

血栓と塞栓

アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞は、主に動脈硬化によって形成されたプラークが破綻し、そこに血栓が形成されて血管を閉塞することで発症する脳梗塞のことである。

高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などのリスクファクターにより、脳内の比較的太い動脈(中大脳動脈、椎骨動脈、脳底動脈など)や、脳に血液を送る頸部の血管(内頸動脈、椎骨動脈)の内壁にコレステロールなどを主成分とするアテローム性プラークが形成される。このプラークが大きくなると、血管内腔が狭くなり、血流が悪くなるほか、不安定なプラークは、線維性被膜が薄くなり、内部に脂質成分が多く含まれるため、破綻しやすい状態になる。

不安定なプラークが、血流の圧力や血管壁へのストレスなどにより破綻し、その部位に血小板が粘着・凝集し、凝固系が活性化され、プラークの破綻部位に血栓が形成される。形成された血栓が、プラークが存在するその場所で、血管を完全に閉塞してしまうと、その先の脳組織への血流が途絶え、虚血性脳梗塞が発症する。

血管の狭窄がゆっくりと進行し、症状が段階的に悪化する「進行性脳梗塞(stroke in evolution)」や、一過性脳虚血発作(TIA)を繰り返した後で本格的な脳梗塞を発症することがある。発症時間は、睡眠中や安静時に発症することが比較的多いとされ、これは血圧が低下して血流が滞り、血栓が形成されやすくなるためと考えられている。


アテローム塞栓性脳梗塞

アテローム塞栓性脳梗塞は、離れた場所にあるプラークから剥がれ落ちた血栓やプラークの断片が、血流に乗って脳の血管まで運ばれ、脳血管を閉塞することで発症する脳梗塞のことである。心原性脳塞栓症と似たメカニズムだが、血栓の発生源が心臓ではなく、動脈硬化性病変であることが心原性脳塞栓症異なる点である。

多くの場合、脳への血流を供給する頸部の動脈(頸動脈、椎骨動脈)や、脳内の比較的太い動脈に、不安定なアテローム性プラークが形成される。このプラークは、表面が不整であったり、潰瘍を形成していたりするため、その表面に血栓が形成されやすい状態になっており、プラーク表面に形成された血栓や、プラーク自体の一部が、何らかのきっかけ(血圧の急な変動、体動など)で剥がれ落ち、血流に乗って脳内へ移動する。この剥がれ落ちたものを「塞栓子」と呼ぶ。移動してきた塞栓子が、自身のサイズよりも細い脳の血管に到達すると、そこで血管を閉塞し、その先の脳組織に血液が供給されなくなり、虚血性脳梗塞が発症する。

塞栓子が突然血管を閉塞するため、症状が急激に、かつ最大限の重症度で出現することが多く、塞栓子がどの血管を詰まらせるかによって、出現する症状の部位や広がりが異なってくる。
アテローム塞栓性脳梗塞の前兆として、一過性黒内障がある。これは、頸動脈から網膜動脈に塞栓子が飛んで一時的に網膜の血流が途絶え、片方の目が見えなくなる症状である。

看護のポイント

急性期

  1. 意識レベル・神経学的所見の観察
    • 麻痺の程度、顔面麻痺、言語障害、瞳孔所見などを経時的に観察し、増悪の有無を早期に発見する。
    • 特に、意識レベルの低下や新たな神経症状の出現は、梗塞の拡大や合併症の可能性を示唆するため、医師への迅速な報告が不可欠となる。
  2. バイタルサインの管理
    • 血圧、脈拍、呼吸、体温の厳密な管理。血圧は脳血流と関連が深く、高すぎても低すぎても問題となる。
    • 発熱は脳保護の観点から避けるべきであり、血糖管理も重要となる。
  3. 安静保持とポジショニング
    • 再出血や梗塞の拡大を防ぐため、ベッド上での安静を保つ。
    • 麻痺側関節の拘縮予防、褥瘡予防、誤嚥性肺炎予防のための適切な体位(ポジショニング)を工夫する。
  4. 呼吸管理と誤嚥予防
    • 意識障害や嚥下障害がある場合、気道確保が重要。誤嚥性肺炎を予防するための口腔ケア、ベッドアップ、嚥下訓練の介助などを行う。
  5. 合併症の予防
    • 深部静脈血栓症(DVT)・肺塞栓症(PE)予防: 早期離床、弾性ストッキングの着用、間欠的空気圧迫装置の使用、必要に応じて抗凝固薬の投与を行う。
    • 褥瘡予防: 体位変換、スキンケア。
    • 尿路感染症予防: 陰部洗浄、適切な排泄管理。
  6. 精神的サポート
    • 突然の病状変化に対する患者や家族の不安、混乱を傾聴し、精神的なサポートを行う。
    • 現状や治療方針について、理解できる言葉で説明し、情報を提供する。

回復期

  1. リハビリテーションの促進
    • 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士と連携し、リハビリプログラムへの積極的な参加を促す。
    • ADLの自立に向けた訓練を支援し、残存機能の活用方法を指導する。
    • 退院後の生活を見据え、自宅環境の調整や福祉サービスの活用について情報提供を行う。
  2. 再発予防のための生活指導
    • 服薬管理: 抗血小板薬、降圧薬、脂質異常症治療薬などの服薬の重要性を説明し、確実な服薬を支援する。自己判断による中断は厳禁であることを強調する。
    • 生活習慣の改善: 食事、運動、禁煙、節酒など、動脈硬化のリスク因子を減らすための具体的な指導を行う。必要に応じて栄養士や保健師と連携する。
    • 定期受診の重要性: 脳梗塞の再発予防や基礎疾患の管理のために、定期的な医療機関への受診が不可欠であることを指導する。
  3. 高次脳機能障害へのアプローチ
    • 失語症、失行、失認、半側空間無視など、患者の高次脳機能障害を評価し、それに合わせたコミュニケーション方法や介助方法を検討・実践する。
    • 家族に対しても、これらの障害への理解を促し、対応方法を指導する。
  4. 心理社会的支援
    • 脳梗塞による後遺症は、患者のQOLに大きな影響を与える。うつ状態や意欲の低下が見られる場合、早期に発見し、精神科医や臨床心理士への連携を検討する。
    • 社会復帰、仕事復帰、趣味の再開など、患者のニーズに合わせた支援を行う。
参考資料
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