アテローム性脳梗塞について

アテローム性脳梗塞について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

脳神経内科や脳神経外科の病棟、あるいは一般内科病棟などで、「昨日入院したときは少し手足が動きにくい程度だった患者さんが、夜勤帯のラウンド時、急に麻痺が進行して言葉もうまく話せなくなっていた」という冷や汗をかくような事例に遭遇したことはありませんか?

脳梗塞にはいくつかタイプがありますが、このように入院後に症状が段階的に悪化しやすい代表格が、今回紹介する「アテローム血栓性脳梗塞」です。
超急性期の血流保持から、進行期の麻痺増悪のキャッチ、そして回復期の離床まで、私たち看護師のベッドサイドでのアセスメントが患者さんの予後をダイレクトに左右します。


目次

サクッと復習!疾患の概要

アテローム血栓性脳梗塞は、脳卒中治療ガイドラインでも主要な病型として分類される脳梗塞の一つです。

  • 病態・原因
    高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を背景に、頸部頸動脈や脳内の太い主幹動脈(中大脳動脈や内頸動脈など)の血管壁にアテローム(粥状硬化斑)が形成されます。このプラークが破綻して血栓が形成され、血管腔を狭窄・閉塞、あるいは末梢へ血栓が飛散して脳血流を遮断します。
  • 症状
    • 段階的進行: 急激に完成する心原性脳塞栓症とは異なり、数時間〜数日かけて階段状に神経症状が進行・悪化するのが特徴です。
    • 局所神経症状: 障害された血管の支配領域に応じ、片麻痺(顔面・一側上下肢)、構音障害、失語症、感覚障害、同名半盲などが出現します。
  • 治療
    超急性期(発症4.5時間以内)では遺伝子組換え組織プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA:アルテプラーゼ)静注療法や経皮的脳血管回収術(カテーテル治療)を検討。その後は抗血小板療法(アスピリンやオザグレルナトリウムなど)、脳保護薬、抗トロンビン薬(アルガトロバンなど)による薬物療法や、虚血ペナンブラ(血流低下はあるがまだ壊死していない領域)を救済するための厳密な血圧・全身管理が行われます。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
収縮期血圧の推移と変動幅ベッドサイドのモニター、あるいは30分〜1時間おきの定時検温にて血圧を測定。目標血圧(急性期はあえて高め、例えば収縮期血圧160∼180mmHg程度に維持することが多い)を下回っていないか、または急激な低下(前値比−20mmHg以上)がないかモニタリングする。【ペナンブラ領域の血流維持(脳灌流圧の確保)】
脳梗塞急性期では、閉塞血管の周囲(ペナンブラ)は側副路からの血流に依存しており、血管の自己調節能が破綻しています。ここで血圧が急激に低下すると、ペナンブラ領域の血流が途絶えて梗塞巣が拡大し、不全麻痺が完全麻痺へと進行するリスクが極めて高くなります。過度の降圧は禁忌です。
麻痺レベルの定量的評価(NIHSSに準じた運動機能評価)毎勤務での申し送り時や検温時、上肢(バレー徴候:回内・沈下の有無)および下肢(ミンガッツィーニ試験、あるいは指示運動)の挙上保持時間を測定し、左右差や挙上維持角度の低下がないか確認する。【進行型脳梗塞の早期発見】
アテローム血栓性脳梗塞は、主幹動脈の狭窄部で血栓が徐々に増大するため、入院後24〜72時間以内に症状が段階的に悪化する「進行型」を呈しやすい特徴があります。「なんとなく動きが悪い」ではなく、挙上可能な秒数や関節可動域の定量的変化として捉えることで、治療方針の切り替え(抗凝固薬の追加や血管内治療の再検討)を医師へ速やかに提案できます。
脱水所見とインアウトバランス(水分出納)舌の乾燥度、皮膚ツルゴールの低下(鎖骨下の皮膚をつまんで戻るまでの時間)、12〜24時間の累積インアウトバランス、および前日比の体重減少(−0.5kg以上など)を評価する。【血液粘稠度の上昇に伴う微小血栓形成の予防】
脱水状態になると血液が濃縮され(ヘマトクリット値の上昇など)、狭窄部位での血液粘稠度(ドロドロ度)が増して微小血栓が形成されやすくなります。これは虚血領域の拡大に直結するため、医師の指示に基づく十分な補液管理と、尿量維持(目標:0.5mL/kg/hr以上)を確認することが不可欠です。

もし患者さんからこう言われたら、あなたならどうする?

急性期病棟の朝の検温時、前日まで軽度の構音障害と右上肢の軽度不全麻痺(MMT4)で経過していたアテローム血栓性脳梗塞の患者さんが、「朝起きたら、昨日よりもなんだか箸が持ちにくいし、足に力が入りにくい気がするんだよね…」と深刻そうな表情で訴えた場面を想定します。

言葉の裏にある病態とニード
これは、夜間の睡眠による不感蒸泄(脱水)や血圧低下に伴い、ペナンブラ領域の血流がさらに低下し、脳梗塞(神経症状)が段階的に進行している、あるいは新たな梗塞巣が発生している超危険サインです。患者さんは「昨日より動かなくなっている」という現実に対して、強い予期不安と恐怖を感じています。

対応アクションと会話例

  • 対応例
    1. ただちにその場でベッドのヘッドアップ角度を下げてフラット(仰臥位)に近くし、脳灌流圧を確保します。
    2. 速やかに血圧、心拍数、SpO2、瞳孔径、対光反射を測定し、同時にNIHSSに沿って上肢・下肢の運動麻痺(バレー徴候など)、言語機能(構音障害・失語の程度)を前日の記録と比較評価します。
    3. すぐに医師へSBARで報告(「アテローム性脳梗塞で入院中の〇〇様ですが、昨日に比べて右上肢のバレー徴候が顕著となり、麻痺がMMT4から2へと進行しています。血圧は現在124/76mmHgと前夜より低下しており、進行型脳梗塞を疑います。点滴速度の調整や緊急MRIのご指示をお願いします」)。
  • 会話例
    「〇〇さん、お箸が持ちにくくなって驚かれましたよね。不安にさせてしまってごめんなさい。今、頭の血の巡りを一番良くするために、ベッドを少し平らにしますね。お体の状態を詳しく確認して、すぐに先生を呼んでお薬の調整をします。私がそばにいますから、頭を動かさずに静かに横になっていてくださいね。」
    • 患者さんの不安を受容しながら、安静保持の治療的意義を明確に伝え、速やかな血流救済アクションに移行します。

現場で差がつく看護のコツ

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
離床時の「段階的ヘッドアップ」と血圧・症状の連動確認安静解除(離床開始)時、いきなり車椅子に移乗させるのではなく、ベッドのヘッドアップを「15度→30度→60度→端座位」と10〜15分かけて段階的に上げ、各段階で血圧測定と麻痺・めまいの有無を確認する。【起立性低血圧による脳虚血再発の予防】
急性期〜亜急性期の血管は自動調節能が働かないため、体位変換によるわずかな血圧低下でも脳虚血症状(麻痺の再出現やめまい)を再燃させます。段階的に行うことで、虚血を誘発しない安全な血圧限界値を見極めることができます。
抗血小板薬の内服徹底と「直視下での嚥下確認」バイアスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を内服させる際、薬を渡して本人任せにするのではなく、必ず「とろみ水」などを用いて一連の嚥下動作を最後まで見届け、口腔内に薬が残っていないか視診する。【再発予防薬の確実な吸収と窒息・誤嚥予防】
アテローム性脳梗塞の再発予防には、抗血小板薬の「血中濃度」を維持することが極めて重要です。構音障害や軽度の顔面麻痺がある患者さんは、自覚がなくても薬が頬粘膜の間に残っていたり、お茶と一緒に誤嚥して喀出してしまうことが多く、これを防ぎます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃って、脳梗塞の患者さんの「安静度」や「血圧指示」が出ていると、指示用紙の数値を守ることばかりに必死になってしまいますよね。
「血圧は140∼180mmHgの間をキープ」と指示がある中で、血圧が138mmHgに下がったのを見て、「あ、少し指示より低いな」と思いつつも、患者さんが元気にテレビを見ているからとそのまま経過観察にしてしまう……これは急性期病棟で本当によくある判断ミスです。

アテローム血栓性脳梗塞において、血圧の低下は「ただの数字の変動」ではなく、「ペナンブラという崖っぷちにある脳細胞への配給水圧が下がったこと」を意味します。数時間の軽度低血圧が、午後になってからの「完全麻痺」を引き起こすトリガーになるのです。

「指示の範囲内だから」と安心するのではなく、「昨日と比べてこの血圧値は、この患者さんの麻痺にどう影響しているか」という、病態生理と身体症状のつながりを意識してみてください。
それができるようになると、夜勤帯のラウンドで「なんだかいつもと違う」という直感が、医師を納得させる根拠あるアセスメントに変わっていきますよ。一緒に一歩ずつ、観察眼を磨いていきましょうね。


参考資料

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