慢性腎臓病について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん受け持ち患者さんのカルテを見ていて、「既往歴:CKD」という文字を目にしない日はありませんよね。でも、いざ「CKD(慢性腎臓病)って、慢性腎不全と何が違うの?」と後輩に聞かれたり、病期(ステージ)に応じた生活指導を組み立てようとしたりするとき、アセスメントやアプローチに少し苦手意識を感じることはありませんか?
CKDの患者さんは、教育入院や透析導入期だけでなく、心不全、糖尿病、脳血管障害、あるいは外科手術の周術期管理など、あらゆる局面で私たちの目の前に現れます。慢性腎不全という終末期像に至る手前から、腎機能低下による心血管イベント(CVD)のリスクを統合的に管理することが現代の看護に求められています。
サクッと復習!疾患の概要
まずは、「慢性腎臓病(CKD)」と、昔からよく使われてきた「慢性腎不全(CRF)」の定義と病態の違いを整理しましょう。
【慢性腎臓病と慢性腎不全の関係イメージ】
慢性腎臓病(CKD):腎障害を示す所見、または GFR 60未満が3ヶ月以上持続する状態の「総称」
(ステージG1〜G5すべてを包括)
慢性腎不全(CRF):CKDが進行し、腎機能が著しく低下した状態(主にステージG3b〜G5)
- 慢性腎臓病(CKD)とは
- 定義
①尿異常(特にタンパク尿)、画像診断、病理組織などで腎障害が明らかであること②eGFR<60mL/min/1.73m2、のいずれか(または両方)が3ヶ月以上持続している状態。 - 慢性腎不全との違い
「慢性腎不全」は腎機能が著しく低下して排泄・調節・内分泌機能の維持が困難になった「状態(主にCKDステージG3b〜G5)」を指します。一方、「CKD」は初期段階(ステージG1〜G2)の軽微な尿異常から、末期腎不全(ステージG5)までをシームレスに包括した広義の「疾患概念」です。
- 定義
- 原因
生活習慣病を背景とする糖尿病性腎症が第1位で、次いで腎硬化症(高血圧が原因)、慢性糸球体腎炎(IgA腎症など)と続きます。近年は高齢化に伴う腎硬化症の割合が急増しています。 - 症状
初期から中期(G1〜G3a)は無症状で経過します(サイレントキラー)。G3b以降になると、夜間多尿、浮腫、全身倦怠感、貧血(腎性貧血)、高血圧の増悪、尿毒症症状(悪心・皮膚掻痒感)が出現します。 - 治療
腎機能悪化の抑制と心血管疾患(CVD)予防を目的に、生活習慣の修正、厳格な血圧管理(RAS阻害薬の第一選択)、血糖コントロール(SGLT2阻害薬等)、食事療法(ステージに応じた塩分・タンパク質制限)、腎性貧血に対するESA製剤投与、末期腎不全に対する腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)への移行準備を行います。








観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 推定糸球体濾過量(eGFR)と尿中アルブミン/蛋白量の推移 | 採血データ内のeGFR数値を過去数ヶ月〜数年分遡って傾きを把握する。また、尿検査での「蛋白定量(または随時尿での蛋白/Cr比)」を確認し、前回のデータと比較して評価する。 | 【末期腎不全(尿毒症)への進行スピードとCVDリスクの予測】 eGFRが1年間に5mL/min/1.73m2以上低下している場合は、急速進行性の腎機能悪化を疑います。 尿蛋白(特に微量アルブミン尿)の増加は、腎臓の糸球体バリアが破壊されていることを示すとともに、全身の血管内皮障害、つまり心筋梗塞や脳卒中といった心血管イベント(CVD)発症の非常に強い予測因子になります。 |
| 体重変動(前日比)と起立性・運動時の息切れ(呼吸状態) | 毎朝の排尿後・朝食前に同一条件で体重を測定し、前日比1kg以上の急激な増加がないかチェックする。同時に、移乗時や歩行時に息切れ(呼吸数20回/分以上、浅呼吸)がないか、臥床時に呼吸が苦しくならないか(起坐呼吸の兆候)を確認する。 | 【体液過剰(溢水)による急性心不全・肺水腫の早期発見】 CKDがG3b以降に進行すると、ナトリウムと水分の排泄能が低下します。1日で1kg以上増えるのは脂肪ではなく「水分貯留(溢水)」です。これが限界を超えると血管内から肺胞へ水分が漏れ出し、急性肺水腫を引き起こします。呼吸困難のサインが出た瞬間に、医師へ報告して12誘導心電図と経皮的酸素飽和度(SpO2)のモニタリング、および酸素投与を準備します。 |
| 血清カリウム(K)、リン(P)、カルシウム(Ca)値 | 採血データのK値(目標5.0mEq/L未満)を確認する。また、P値とCa値のバランス(Ca×P積)を確認し、骨痛や血管石灰化の徴候がないかアセスメントする。 | 【致死性不整脈と骨塩代謝異常(CKD-MBD)の回避】 腎臓からのカリウム排泄低下により高カリウム血症となりやすく、心停止(Vf)の危険があるため、K値急増時は12誘導心電図を準備します。また、Pの排泄低下と活性型ビタミンD3の産生低下に伴う低Ca血症は副甲状腺機能亢進を引き起こし、骨の菲薄化(骨折リスク)や全身の血管石灰化を招くため、内服薬(リン吸着薬など)のコンプライアンス管理が欠かせません。 |


もし患者さんがこう言ったら、あなたはどうする?
CKDの保存期(特にステージG3〜G4)で、食事療法(特に塩分制限6g/g/day未満)を開始したばかりの患者さんから、「最近、味が薄くてご飯が美味しくないんだ。内緒で醤油や梅干しをちょっと足してもいいかね?」とベッドサイドでよく相談されます。
対応アクションと会話例
- 対応例
- 患者さんの目線の高さに腰を下ろし、我慢している辛さに共感します。
- 味覚障害の有無(金属味や苦味を感じるなど)をフィジカルアセスメントします。
- 塩分を「ただ減らす」のではなく、「風味や酸味(だし、レモン、すだち、スパイス、大葉など)を工夫して美味しく食べる代替案」を具体的に提案します。
- 会話例
「毎日、味の薄いおかずを我慢して食べてくださっているんですね。ご飯が美味しくないのは、本当に寂しいですし、お辛いと思います。お醤油や梅干しを足したくなってしまうお気持ち、よく分かりますよ。
実は、腎臓の働きが少し落ちてくると、お口の中が乾きやすくなったりして、普段より味を感じにくくなることもあるんです。お醤油をドバッとかける代わりに、レモンをキュッと絞ったり、カツオや昆布のだしを効かせたり、生姜や七味などのスパイスを少しピリッと効かせてみるのはいかがでしょうか?舌にしっかり刺激が伝わって、塩分が少なくても美味しく感じられる工夫があるんですよ。栄養士さんとも相談して、〇〇さんが少しでも美味しく食べられるメニューを一緒に考えてみませんか?」
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・コツ・アイデア | 具体的な手技・環境調整 | 期待される効果・メリット |
|---|---|---|
| 血圧測定は「毎日決まった条件(家庭血圧の重視)」で行う指導 | 起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬前、座って1〜2分安静にした状態で測定するよう徹底する。病棟では「点滴ルートがある側」や「シャント造設予定肢」を避けて測定し、その数値を日内で比較評価する。 | 【正確な体液量評価と降圧治療の最適化】 CKDにおける血圧管理は腎機能低下を抑制するための最重要介入です。血圧変動(特に夜間高血圧や早朝高血圧)のパターンを正確に捉えることで、血管内皮の負担を減らし、降圧薬の投与タイミングの微調整(医師への提案)に繋がります。 |
| カリウム(K)をカットする「調理ひと工夫」の具体的説明 | 患者さんや調理を担当するご家族へ、生野菜や果物を食べる際の具体的な下処理として、「野菜は細かく刻んで5〜10分水にさらす」「じゃがいもや人参などは皮をむいて、たっぷりのお湯で茹でこぼし、茹で汁は捨てる」ことをイラストを交えて説明する。 | 【高K血症を防ぎつつ、食べられる食材を増やす】 「生野菜や果物は一切食べてはダメ」と制限を厳しくしすぎると、患者さんのQOLが著しく低下します。カリウムが水溶性である性質を利用した調理手技を実践してもらうことで、安全に食事のバリエーションを確保でき、指導の継続性が高まります。 |
| 脱水を予防する「サードスペースへの移行」予測管理 | 発熱時、下痢・嘔吐時、あるいは造影CT検査などの前後において、経口摂取困難な場合は速やかに点滴加水(生理食塩水など)を医師と調整する。その際、血圧低下(収縮期圧20mmHg以上の低下)や急激な尿量低下がないか時間尿で追跡する。 | 【慢性腎障害(CKD)上の急性腎障害(A on C)の回避】 CKD患者さんの腎臓は、予備能力が非常に低下しているため、脱水による一時的な低灌流でも容易に「急性腎障害」を合併し、一気に透析導入が必要なレベルまで機能悪化します。先回りした水分管理が腎機能を救います。 |


新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃って、CKDの患者さんを受け持つと、どうしても「塩分6g、タンパク質0.6g/kg、カリウム2000mg以下…」といった栄養指導の数字ばかりに囚われてしまいがちですよね。そして、患者さんの手元にお菓子の袋があるのを見つけると、ハッとして「〇〇さん、ダメですよ!カリウムも塩分も入っていますから!」と学校の先生のように注意してしまう……これもよくある失敗です。
でも、そうやって「ダメ」を突きつけられた患者さんは、次から私たちに隠れて食べるようになり、本当の食生活が見えなくなってしまいます。
CKDの看護で最も大切なのは、「禁止すること」ではなく、「患者さんがこれからの長い療養生活を、どうすれば無理なくコントロールしていけるか」を一緒に探るパートナーになることです。
お菓子を食べたい気持ちに一度共感した上で、「じゃあ、お昼の主食のタンパク質を少し調整して、このお菓子を半分だけ、お茶と一緒に楽しむ工夫をしましょうか」と、患者さんの生活に歩み寄った代償案を提案してみてください。
制限だらけで暗くなっている患者さんの表情が、その提案一つでパッと明るくなるはずです。そうした「生活の調整役」としての看護の面白さを、ぜひ現場で味わってくださいね。