不安定性狭心症について

不安定狭心症の病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

急性冠症候群(ACS)の一つである「不安定狭心症」の理解は循環器領域で働くにあたって欠かせません。不安定狭心症は、心筋梗塞へ移行する危険性が非常に高く、迅速かつ的確な対応が求められる緊急性の高い疾患です。
この記事では、不安定狭心症の病態生理から原因、症状、治療、そして看護のポイントまでを丁寧に解説します。


目次

不安定狭心症とは

不安定狭心症は、冠動脈の動脈硬化巣である「プラーク」が破綻し、血栓が形成されることで冠動脈が急速に狭窄・閉塞しかかる状態です。

プラークの不安定化と破綻
動脈硬化によってできたプラークの中でも、脂質コアが大きく線維性被膜が薄いものを「不安定プラーク」と呼びます 。このプラークが、血圧の変動や炎症などをきっかけに破綻します。
血栓の形成
プラークが破綻すると、その内容物が血液に触れ、血小板が活性化・凝集し、血栓が形成されます。
冠動脈の狭窄・閉塞
形成された血栓によって冠動脈の内腔が著しく狭くなり、心筋への血流が大幅に減少します。これが心筋虚血を引き起こし、胸痛などの症状が出現します。

安定狭心症が労作などによって一過性の心筋虚血が起こるのに対し、不安定狭心症は血栓によって持続的な虚血状態に陥りやすく、いつ冠動脈が完全に閉塞して心筋梗塞になってもおかしくない、まさに「不安定」な状態です。


不安定性狭心症の原因

不安定狭心症の主な原因は、冠動脈の動脈硬化です。動脈硬化を進行させる危険因子としては、以下のようなものが挙げられます。

高血圧
脂質異常症(高コレステロール血症)
糖尿病
喫煙
肥満
ストレス
加齢
家族歴

これらの危険因子が複合的に関与し、動脈硬化を進行させ、不安定プラークの形成につながります。


不安定性狭心症の症状

不安定狭心症の症状は、安定狭心症と比較して以下の特徴があります。

  • 安静時にも胸痛が出現する
  • 今までにない強い胸痛(締め付けられるような、圧迫されるような痛み)
  • 胸痛の頻度が増加し、持続時間が長くなる(20分以上続くことも)
  • ニトログリセリン(舌下錠)が効きにくくなる、または効果がない

これらの症状は、心筋梗塞の前兆である可能性が非常に高い危険なサインです。胸痛以外にも、放散痛(左肩、腕、顎など)、冷や汗、嘔気、呼吸困難などを伴うことがあります。


検査・治療

検査

  • 心電図
    • 虚血を反映してST低下やT波の陰転が見られることが多いですが、非ST上昇型であることが特徴です。
  • 血液検査
    • 心筋逸脱酵素(CK, CK-MB, トロポニンTなど)を測定します。心筋壊死が起きていなければ上昇しませんが、心筋梗塞への移行を判断するために経時的に測定します。
  • 心臓カテーテル検査
    • 冠動脈の狭窄部位や程度を直接評価するための最も重要な検査です。検査と同時に治療(PCI)へ移行することが多いです。

治療

不安定狭心症の治療目標は、「心筋梗塞への移行を防ぐこと」と「症状の緩和」です。

  • 薬物療法
    • 抗血小板薬:アスピリンやクロピドグレルなど。血栓形成を抑制します。
    • 抗凝固薬:ヘパリンなど。血栓の増大を防ぎます。
    • 血管拡張薬:ニトログリセリンなど。冠動脈を拡張させ、心臓の負担を軽減します。
    • β遮断薬:心拍数を下げ、心筋の酸素需要を減らします。
  • カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)
    • 手首や足の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、冠動脈の狭窄部位まで進めます。バルーンで狭窄部を拡張したり、ステントを留置して血管を内側から支え、血流を再開させます。
  • 冠動脈バイパス術(CABG)
    • カテーテル治療が困難な多枝病変などの場合に選択されます。体の他の部位の血管(グラフト)を用いて、冠動脈の狭窄部の先に新たな血流路(バイパス)を作成する手術です。

看護のポイント

急性期の看護

  1. 心筋虚血の観察と症状緩和
    • バイタルサイン、12誘導心電図、SpO2のモニタリングを継続的に行い、異常の早期発見に努めます。特に胸痛の出現や心電図変化(ST変化)は見逃せません。
    • 胸痛の評価(場所、程度、持続時間、放散痛の有無など)を正確に行い、医師の指示に基づき速やかにニトログリセリンなどの薬剤を投与します。
    • 酸素投与を行い、心筋への酸素供給をサポートします。
  2. 安静の保持と精神的安楽
    • 絶対安静とし、心筋の酸素消費量を最小限に抑えます。排泄もベッド上で行うなど、身体的負担を軽減する援助が必要です。
    • 患者は強い胸痛や死への恐怖から、強い不安を抱えています。穏やかな口調で話しかけ、治療や検査について分かりやすく説明することで、不安の軽減に努めます。必要に応じて鎮静薬の使用も検討されます。
  3. 合併症の予防と早期発見
    • 心筋梗塞への移行、致死性不整脈、心不全などの重篤な合併症に注意し、モニタリングを続けます。

回復期・退院支援の看護

  1. 再発予防に向けた生活指導
    • 服薬の重要性:抗血小板薬など、自己判断で中断しないよう指導します。
    • 食事療法:塩分、脂肪分を控えた食事について、栄養士と連携して指導します。
    • 運動療法:医師の許可のもと、適切な運動量について指導します。
    • 禁煙指導:喫煙は最大の危険因子の一つです。禁煙外来の利用も検討します。
  2. セルフモニタリングの指導
    • 胸痛などの再発症状出現時の対処法(ニトログリセリンの使用、救急要請のタイミングなど)を具体的に指導し、患者自身が自分の状態を管理できるよう支援します。
参考資料
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