頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症について

頚椎症性脊髄症/頚椎症性神経根症について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

整形外科はもちろん、内科や他科の病棟でも「手がしびれる」「首から肩にかけて痛い」と訴える患者さん、よくいらっしゃいますよね。「ただの肩こりかな?」「五十肩(肩関節周囲炎)の既往があるしね」と、湿布を渡して様子を見てしまっていませんか?
そのしびれや痛み、実は「頚椎症性脊髄症(CSM)」や「頚椎症性神経根症(CSR)」のサインかもしれません。これらを見逃し、不用意に頚部を後屈させるようなケアを行ってしまうと、一気に神経症状が悪化し、最悪の場合は不可逆的な歩行障害や排泄障害を引き起こすリスクがあります。
今回は、似て非なる「脊髄症」と「神経根症」の見極め方と、患者さんのADLを守るためのアセスメントの視点を紹介しますね。


目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態・原因
    • 加齢に伴う頚椎の変形(椎間板の膨隆、骨棘の形成、黄色靭帯の肥厚など)により、脊柱管や椎間孔が狭小化し、神経組織が圧迫される疾患です。
  • 頚椎症性神経根症(CSR)
    • 脊髄から枝分かれした「神経根」が圧迫される病態。主に一側(片側)の頚部〜上肢にかけての放散痛、しびれ、脱力感(デルマトームに一致した感覚障害)が生じます。特定の方向へ首を動かすと痛みが走るのが特徴です。
  • 頚椎症性脊髄症(CSM)
    • 中枢神経である「脊髄本体」が圧迫される病態。症状は両側性に出現しやすく、手指の巧緻運動障害(箸が使えない、ボタンがかけられない)、下肢の痙性歩行(もつれるような歩き方)、進行すると膀胱直腸障害を呈します。
  • 治療
    • 神経根症はNSAIDsやプレガバリン等の内服、頚椎カラーによる安静などの保存療法が主体。脊髄症でADL障害が進行している場合は、早期の観血的治療(前方除圧固定術や後方除圧術など)の適応となります。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
上肢の巧緻運動と10秒テスト(グーパーテスト)食事の際に箸の操作がぎこちなくないか観察する。両手を前に出させ、指を完全に開き、完全に握る「グーパー」を素早く繰り返させ、10秒間に何回できるか(20回以下なら異常疑い)をカウントする。脊髄が圧迫される(頚髄症)と、錐体路障害により手指の巧緻性が失われます。これを「ミエロパチーハンド」と呼びます。「加齢による不器用さ」と見過ごさず、数値化して医師へ情報提供することで、手術適応の早期判断につながります。
歩行状態と病的反射の有無トイレ歩行時、足先が床に引っかかっていないか、膝が突っ張ったような歩き方(痙性歩行)をしていないかを見る。可能であれば、足底を擦ってバビンスキー反射の有無を確認する。頚髄症が進行すると、上位運動ニューロン障害により下肢の痙性麻痺が生じます。これによる転倒リスクは極めて高いため、歩行状態の変化に気づいた瞬間に、見守り歩行や車椅子へのADL変更を検討する必要があります。
頚部後屈時の疼痛誘発(ジャクソンテスト・スパーリングテストの視点)洗髪時やうがいをする際など、頚部を後屈(後ろに反らす)させたときに、腕や指先に「ビリッ」と電気が走るような放散痛(疼痛の増悪)がないか問診する。神経根症の場合、頚部を後屈(または患側に傾斜)させると椎間孔がさらに狭くなり、神経根の圧迫が強まって放散痛が誘発されます。この症状がある患者さんに、無理な体位変換や安易な洗髪介助を行うのは禁忌に近い行為です。

もし患者さんが「最近、お箸が使いにくくて…」と言ったら?

食事の配膳に行った際、患者さんがため息をつきながらこう言いました。
「最近、お箸がうまく持てなくて、よく食べ物を落としちゃうのよね。歳をとって手先が鈍くなったみたい」
この時、「食べにくいならスプーンに変えましょうか」とだけ返して終わらせてはいけません。

言葉の裏にある病態
これは単なる加齢ではなく、頚椎症性脊髄症による「巧緻運動障害の進行(ミエロパチーハンド)」を示す決定的なサインです。昨日まで使えていた箸が急に使えなくなった場合、脊髄の圧迫が急速に進行している可能性があります。

対応アクションと会話例

  1. 症状の客観的評価(10秒テストの実施)
    • 「お箸が使いにくくなったんですね。少し首の神経の影響が出ているのかもしれないので、両手で『グー、パー』を素早く繰り返してみてください。(10秒間の回数をカウント)」
  2. 安全な食事環境の提供
    • 「指先の細かい動きが少し難しくなっているようなので、今日は無理せず太めのスプーンやフォークを使いましょう。落としてしまうとストレスになりますからね」
  3. 医師へのタイムリーな報告
    • 「〇〇さん、昨日までは箸を使用できましたが、本日の昼食時から箸の操作困難を訴え、10秒テストも右15回、左18回と低下しています。頚髄症の症状増悪が疑われます」とSBARで医師に報告し、MRI等の精査や治療方針の再検討を促します。

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的な手技・環境調整期待される効果・メリット
「高すぎる枕」の禁止と頚椎中間位の保持就寝時の枕が高すぎて、頚部が過度な前屈位になっていないか確認する。バスタオルなどを用いて、頚椎の自然な前弯(中間位)を保てる高さに調整する。頚部の過度な前屈や後屈は、脊柱管を狭くして脊髄の圧迫を増強させます。睡眠中の無意識の悪姿勢を防ぐことで、起床時のしびれや疼痛の悪化を予防できます。
うがい・点眼時の「頚部後屈」の回避点眼指導や含嗽の際、「上を向いてください」と指示するのではなく、「首はまっすぐのまま、目線だけ上に向けてください」と伝え、必要時はベッドのギャッチアップを利用する。うがいや点眼動作での頚部後屈は、神経根症の患者さんに激痛(放散痛)を走らせるトリガーです。生活動作の中での「頚部の動き」を最小限に抑える指導が重要です。
靴下着脱・足元環境の整備(転倒予防)巧緻運動障害がある場合、靴下の着脱(ソックスエイドの活用)を手伝う。また、痙性歩行がある場合は、つまずきやすいスリッパを禁止し、かかとのある靴を徹底させる。脊髄症の患者さんは、足がもつれやすく、かつ転倒した際に手で庇うことが遅れるため、顔面や頚部から転倒し「中心性頚髄損傷」という重篤な事態を招きやすいです。徹底した転倒予防が命を守ります。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

よくやってしまうミスが、「しびれます」という訴えに対して、ただ「両上肢のしびれあり」とカルテに一行書いて終わってしまうことです。

「しびれ」という言葉に慣れてしまいがちですが、神経のプロである医師が見たいのは「どの領域が、どのようにしびれているか」です。


例えば、「親指と人差し指側がしびれるのか(C6領域)」、「小指側がしびれるのか(C8領域)」、「それとも両手全体がジンジンするのか(脊髄症疑い)」などなど。この「デルマトーム(皮膚分節)」を意識して、「右手の親指から前腕にかけてビリビリする」と具体的に書けるようになると、医師はカルテを見ただけで「あ、C6の神経根がやられてるな」と推論できるようになります。

あずかん

「しびれる」と言われたら、まずは「どこからどこまでですか?」「触った感覚は左右で違いますか?」と深掘りする癖をつけてみてください。その少しの踏み込みが、アセスメント能力を飛躍的に高めてくれますよ。

参考資料
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