腰部脊柱管狭窄症について

腰部脊柱管狭窄症について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

高齢化に伴い「腰部脊柱管狭窄症(LSS)」の患者さんと関わる機会は非常に多くなっていくと思われます。「また腰痛の患者さんか」とルーチンワークに感じてしまう瞬間があるかもしれません。しかし、この疾患は患者さんの「歩きたい」という根源的なADLを阻害し、重症化すれば排泄障害まで引き起こす、QOLに直結する重要な疾患です。
今回は、教科書的な知識だけでなく、臨床現場で「ここを見ておけば急変を防げる」「こう声をかければ患者さんが前向きになれる」と感じたポイントを紹介します。

目次

サクッと復習!疾患の概要

  • 病態 
    • 加齢変性により、黄色靭帯の肥厚、椎間関節の変形、椎体骨棘などが生じ、脊柱管が狭小化することで馬尾神経や神経根が圧迫される状態です。
  • 症状
    • 間欠性跛行: LSSの代名詞的症状。歩行により下肢の疼痛・しびれが出現し、前屈位で休息すると改善します。
    • 下肢のしびれ・知覚鈍麻: デルマトームに沿った障害が出現します。
    • 膀胱直腸障害: 重度の馬尾障害では、頻尿、尿閉、失禁が生じます(手術の絶対適応)。
  • 治療
    • 保存療法:プロスタグランジンE1製剤(リマプロストなど)やNSAIDsの内服、神経ブロック。
    • 手術療法:除圧術(開窓術、椎弓切除術)、固定術(PLIF/TLIF/LLIFなど)。

観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
足背動脈・後脛骨動脈の触知両側の足背・内果後方で脈拍を触知し、左右差や減弱がないか確認する。
冷感や皮膚色不良がないかも同時に見る。
「足が痛くて歩けない」=LSSとは限りません。閉塞性動脈硬化症(ASO)による血管性跛行との鑑別が必須です。脈拍触知が微弱な場合、ABI検査の必要性を医師へ提案する材料になります。
母趾の背屈・底屈力(MMT)「足の親指を天井に向けて反らしてください」「床に向けて踏み込んでください」と指示し、抵抗を加えて筋力を評価する。L4/5、L5/S1レベルの障害では、前脛骨筋や長母趾伸筋の麻痺が出現しやすいです。特に術後、血腫による神経圧迫(麻痺の進行)がないかを経時的に評価するためには、「なんとなく動く」ではなく「MMT3から2へ低下した」というシビアな判定が必要です。
排尿・排便の感覚(S領域)「おしっこが出にくい感じはありませんか?」「肛門周りがぼんやりしていませんか?」と、サドルエリアの感覚を問診する。馬尾症状としての膀胱直腸障害は見逃し厳禁です。特に術後、硬膜外血腫による圧迫が起きると、下肢痛よりも先に尿閉が出現することがあります。残尿測定の数値と合わせて評価します。
歩行姿勢の変化歩行器使用時や自由歩行時に、体幹が前傾姿勢になっているか、あるいは伸展位を保とうとしているかを確認する。LSS患者は「前かがみ(前屈)」で脊柱管が広がり症状が楽になります。逆に、無理に背筋を伸ばそうとして痛みが強くなっている場合は、歩行器の高さ調整やシルバーカーへの変更を検討するサインです。

もし患者さんが「歩くとすぐ痺れる」と言ったら?

保存療法中、あるいは術後リハビリ期の患者さんが、廊下で立ち止まり辛そうにこう言いました。
「トイレに行こうと思ったけど、ここまで歩くだけで足がビリビリして動けなくなっちゃった。情けないわ…」
ここで「無理しないでくださいね」「車椅子を使いましょう」と即答するのは、患者さんの残存機能を奪う可能性があります。

言葉の裏にあるニード
この訴えには、身体的な苦痛だけでなく、「自分の足で歩きたいのに歩けないもどかしさ」「以前のように生活できなくなるのではないかという喪失感」が含まれています。

対応アクションと会話例

  1. 症状のメカニズムを肯定的に伝える(教育的関わり)
    • 「足がビリビリして辛いですね。でも、これは〇〇さんの病気の特徴で、休めば必ずまた動けるようになるサインなんですよ。情けなくなんてないです。」
  2. 具体的な対処法(姿勢)の提案
    • 「少し背中を丸めて、膝に手をついて休んでみましょうか。この姿勢だと、背骨の神経の通り道が広がって、血流が戻ってくるんです。」
  3. 成功体験の共有と環境調整
    • (症状が落ち着いてから)「ほら、また歩けるようになりましたね。次は、廊下のあの手すりがあるベンチまでを目標に休みましょう。『休み休みなら歩ける』というペースを一緒に掴んでいきましょう。」

現場で差がつく看護のコツ・ポイント

工夫・コツ・アイデア具体的アクション・環境調整期待される効果・メリット
安楽体位「セミファウラー位」の活用ベッド上安静時、膝下に枕を入れるか、ベッドの膝上げ機能を使って股関節・膝関節を軽度屈曲位にする。脊柱の前弯(反り腰)を減少させ、脊柱管の内圧を下げることで、安静時の神経根性疼痛やしびれを軽減できます。完全な仰臥位(伸展位)は苦痛を増強させることが多いです。
鎮痛薬の「先回り投与」リハビリ開始時間の30〜60分前に、アセトアミノフェンやプレガバリンなどの内服指示がないか確認し、あれば服用を促す。疼痛がピークに達してから頓用を使うのではなく、血中濃度が安定した状態でリハビリに臨むことで、活動量を確保しやすくなります。「痛いからリハビリしたくない」という離脱を防ぐための戦略です。
間欠性跛行の「距離」の数値化「どのくらい歩けますか?」と聞くのではなく、病棟の廊下の長さを把握しておき、「何メートルで症状が出たか」をカルテに残す。「昨日は20mだったけど、今日は30m歩けましたね」と具体的なフィードバックが可能になり、患者さんのリハビリ意欲向上につながります。また、治療効果の客観的指標になります。
コルセット装着の正しい指導腹部を圧迫するだけでなく、仙骨・腸骨稜をしっかり覆う位置で装着できているか、訪室時に毎回チェックする。高齢者はコルセットがずり上がって「腹巻状態」になっていることが多いです。正しい位置で腹圧を高めることで、腰椎の支持性が増し、疼痛緩和効果が最大限に発揮されます。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人の頃、私がよく勘違いしていたことがあります。それは「手術をすれば、すぐに痺れが取れる」と思い込んでいたことです。
術後の患者さんが「まだ足が痺れているんです」と訴えた時、「手術したばかりだから、そのうち治りますよ」と軽く返していませんか。しかし、実際には神経の圧迫期間が長かった場合、しびれは術後も残存することが多く、患者さんはなかなか改善しない痺れに強い不安を抱きます。

患者さんの訴えに対して、「術後だから仕方ない」という思考停止に陥らないように注意してください。
そのしびれが「術前と同じレベル(遺残)」なのか、「術前より悪化している(血腫やスクリューの逸脱などの合併症)」なのか、あるいは「場所が変わっている」のか。
ここを見極めるのが看護師の観察力です。

「しびれは残るかもしれませんが、痛みは取れて歩けるようになりますよ」といった、医師からのIC内容と整合性の取れた説明ができるようになると、患者さんの不安を不用意に煽らずに済みます。カルテのIC記録、しっかり読み込んでおきましょうね。

参考資料
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