代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシスについて|症状の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「さっきから呼吸が深くて速いんだけど、SpO₂は98%です」という報告を受けたとき、あなたは何を考えますか。SpO₂が保たれていても、代謝性アシドーシスの代償性過換気が始まっていることがあります。
ここで押さえたいのは、これらは診断名ではなく、背景にある病態が引き起こした「結果」だということです。乳酸アシドーシスの裏には敗血症や出血性ショックが、代謝性アルカローシスの裏には持続する嘔吐、胃管排液、利尿薬、低K血症が隠れています。pHを補正する前に、「なぜそうなったか」を拾い上げることが看護師の観察の出番です
代謝性の酸塩基異常は、HCO₃⁻の変化が一次性の病態です。
・代謝性アシドーシス:HCO₃⁻の低下(酸の蓄積、またはHCO₃⁻の喪失)
・代謝性アルカローシス:HCO₃⁻の上昇(酸の喪失、またはHCO₃⁻の過剰)
見逃したときのリスクは次の通りです。
・重度の代謝性アシドーシス:心筋収縮力低下、カテコラミン反応性低下、致死的不整脈、意識障害
・代謝性アルカローシス:低K血症・低Ca血症(イオン化Ca低下)による不整脈、テタニー、痙攣、換気抑制によるCO₂貯留
【対比表】代謝性アシドーシス vs 代謝性アルカローシス
| 項目 | 代謝性アシドーシス | 代謝性アルカローシス |
|---|---|---|
| 一次性変化 | HCO₃⁻ 低下 | HCO₃⁻ 上昇 |
| pH | 低下(アシデミア) | 上昇(アルカレミア) |
| 呼吸性代償 | 換気↑(PaCO₂低下) | 換気↓(PaCO₂上昇) |
| 代表的な原因 | 乳酸アシドーシス、DKA、腎不全、下痢、大量生理食塩水 | 嘔吐・胃管排液、ループ・サイアザイド系利尿薬、低K血症、重炭酸の過剰投与 |
| 鑑別の軸 | AG(アニオンギャップ) | 尿中Cl(Cl反応性かどうか) |
| 典型的な身体所見 | 深く速い呼吸(クスマウル呼吸)、末梢冷感、意識障害 | しびれ、筋攣縮、テタニー、浅い呼吸、不整脈 |
| K値への影響 | 上昇しやすい(細胞内外のK⁺/H⁺交換) | 低下しやすい |
| 看護の着眼点 | ショック・組織低灌流・腎機能・血糖 | IN-OUT(胃管排液)・利尿薬・電解質 |
【保存版】観察項目&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 呼吸数・呼吸パターン | SpO₂の数値だけでなく、1分間を実測し、深さ(1回換気量)とリズムを併せて見る。深く大きな呼吸が持続するか(クスマウル様)、浅く遅い呼吸へ変化していないかを前回値と比較する | 代謝性アシドーシスでは、H⁺増加を中枢・末梢化学受容体が感知し、換気を増やしてPaCO₂を下げる呼吸性代償が働く。呼吸数・深さの増加は、代償が働いているサイン。逆に代償中の呼吸が浅く遅くなった場合は、呼吸筋疲労や意識低下による代償破綻の前兆。代謝性アルカローシスでは代償性に低換気となるため、呼吸が浅くなり、PaCO₂上昇やSpO₂低下を招くことがある。換気の異常は酸素投与下ではSpO₂に現れにくい |
| 意識レベル(JCS/GCS)、せん妄、傾眠 | 前回の評価と比較し、呼びかけへの反応の速さ、会話のつじつま、見当識を確認する。夜間の傾眠を「寝ている」と判断せず、刺激への反応を必ず確認する | 重度の代謝性アシドーシスでは、脳細胞内のpH低下や乳酸・尿毒症物質の蓄積、低灌流により意識障害を来す。DKAでは脱水・高浸透圧も関与する。代謝性アルカローシスでは、低K血症・低Ca血症・脳血流低下によるせん妄・錯乱が出ることがある。意識の変化は、血ガスの数値が悪化する前の早期サインになりうる |
| 血圧・脈拍・末梢循環(CRT、冷汗、皮膚色) | 血圧は単回値でなくトレンドで見る。脈拍上昇、四肢冷感、CRT 2秒超、冷汗、網状皮斑を確認する。尿量と併せて評価する | 乳酸アシドーシスの主因は組織低灌流(ショック)。循環不全→嫌気性代謝→乳酸産生→アシデミア→心収縮力・血管反応性低下→さらに循環悪化という悪循環に入る。血圧が保たれていても末梢循環は破綻していることがある(代償性ショック)ため、数値だけで安心しない。乳酸は組織灌流の指標として推移を追う価値が高い |
| 心電図モニター(高K・低K関連の波形変化) | テント状T波、P波消失、QRS幅の拡大、QT延長、U波、新規の心室性期外収縮を確認する。波形が変化した時点で血清Kを確認する | アシデミアでは細胞外H⁺が細胞内に入り、代わりにK⁺が細胞外へ移動するため、高K血症になりやすい(ただし有機酸性アシドーシスでは影響が小さいという指摘もある)。 アルカレミアでは逆にK⁺が細胞内へ移動し、さらにループ利尿薬や嘔吐によるK喪失が加わり低K血症が進む。K値の異常は致死的不整脈に直結するため、pHとKはセットで見る |
| 嘔吐・胃管排液・下痢の量と性状(IN-OUT) | NGチューブからの排液量と色調(胆汁混じり、血性など)、嘔吐回数、下痢の回数と水様度を、時間帯別に具体的な数値で記録する。ストーマや瘻孔、ドレーンからの消化液排出も含めて確認する | 胃液にはH⁺とCl⁻が豊富に含まれるため、嘔吐や胃管排液の持続でH⁺とCl⁻が失われ、代謝性アルカローシス(低Cl性)を来す。下痢や腸瘻、膵液・胆汁ドレナージでは、HCO₃⁻を含むアルカリ性の消化液を失い、正常AG性(高Cl性)代謝性アシドーシスになる。どの消化液をどれだけ失っているかで、酸塩基の傾きと電解質の方向を予測できる |
| 尿量・腎機能(BUN/Cr)、尿比重 | 時間尿量(目安0.5mL/kg/時)を継続記録する。BUN/Crの推移、尿比重、利尿薬投与後の尿量を併せて見る | 腎臓はH⁺の排泄とHCO₃⁻の再吸収で酸塩基を調整している。AKIや慢性腎臓病では、酸の排泄低下により代謝性アシドーシスが進行・遷延する。乏尿は腎前性(脱水・循環不全)か腎性かの鑑別にもつながる。代謝性アルカローシスでは、有効循環血漿量の減少がHCO₃⁻再吸収を促進して維持因子となるため、補液で改善するかどうかが鑑別の手がかりになる |
| 血液ガス:pH、PaCO₂、HCO₃⁻、BE | ①pHでアシデミア/アルカレミア判定→②PaCO₂とHCO₃⁻のどちらが一次性かを判断→③代償が適切かを評価の順に読む。呼吸性代償が予測範囲に入っているかを確認する | 代謝性アシドーシスでは、予測PaCO₂ = 1.5×HCO₃⁻ + 8(±2)(Winter式)で代償の妥当性を評価できる。予測より高ければ呼吸性アシドーシスの合併、低ければ呼吸性アルカローシスの合併を疑う。代謝性アルカローシスでは、HCO₃⁻が1上がるごとにPaCO₂は概ね0.7程度上昇する。代償の範囲を外れていれば混合性障害であり、見逃すと原因の取りこぼしにつながる |
| アニオンギャップ(AG)と補正 | AG = Na − (Cl + HCO₃⁻) を計算する(基準値は施設・測定法で異なる。概ね12±2)。低アルブミン血症があればAGを補正して解釈する | AG開大性は、乳酸、ケトン体、尿毒症物質、メタノールやエチレングリコール、サリチル酸など不揮発性酸の蓄積を示す。AGが正常でHCO₃⁻低下なら、下痢、尿細管性アシドーシス、大量生理食塩水などHCO₃⁻喪失・Cl過剰を考える。アルブミンは陰イオンのため、低アルブミン血症ではAGが見かけ上低くなり、AG開大を見逃す(Alb 1g/dL低下でAG約2.5低下するとされる) |
| 乳酸値と循環・薬剤背景 | 乳酸値を経時的に確認し、クリアランス(低下しているか)を見る。同時にメトホルミン内服歴、腎機能、肝機能、低酸素、ショックの有無を確認する | 乳酸の上昇は、組織低灌流・低酸素(A型)と、メトホルミン、肝不全、悪性腫瘍など酸素不足以外の要因(B型)に分けて考える。ショックでは乳酸の推移が治療反応性の指標になる。メトホルミンは腎機能低下時に蓄積して乳酸アシドーシスを来しうるため、造影剤使用やAKI併発時は特に注意して確認する |
| 血糖値・ケトン体・口渇・多尿・腹痛・果実臭 | 糖尿病患者では、血糖、尿・血中ケトン(β-ヒドロキシ酪酸)を確認する。嘔気・腹痛、口渇、多尿、アセトン臭を問診・観察する。SGLT2阻害薬、絶食、シックデイの有無も確認する | インスリン欠乏により脂肪分解が亢進し、ケトン体産生が増加してAG開大性代謝性アシドーシス(DKA)となる。SGLT2阻害薬内服中は血糖が高くなくてもケトアシドーシスを起こす(正常血糖DKA)ため、「血糖が高くないから大丈夫」とは言えない。絶食・手術前後・飲酒歴のある患者ではアルコール性ケトアシドーシスも鑑別に挙がる |
| 利尿薬・輸液・薬剤歴 | ループ・サイアザイド系利尿薬、制酸薬・重炭酸の投与、緩下剤、大量生理食塩水、アセタゾラミドなどの投与歴と量を確認する | ループ・サイアザイド系利尿薬は、循環血漿量減少、低K、Cl喪失により代謝性アルカローシスを招く(濃縮性アルカローシス)。大量の生理食塩水はClを多く含み、高Cl性(正常AG性)代謝性アシドーシスの原因となる。アセタゾラミドは近位尿細管でHCO₃⁻再吸収を抑制し、アシドーシスを来す。投与薬剤から酸塩基障害の方向を予測できる |
| 手指のしびれ・口周囲の違和感・筋攣縮・Trousseau徴候/Chvostek徴候 | しびれや筋痙攣の訴えを確認し、トルーソー徴候(血圧計のカフを収縮期血圧以上で3分間加圧し、助産師の手様となるか)やクボステック徴候の評価を医師と相談して行う | アルカレミアでは、アルブミンと結合するCa²⁺が増加してイオン化Caが低下するため、神経筋興奮性が亢進し、しびれ、テタニー、痙攣を生じる。これは代謝性アルカローシスでも起こりうる。「年のせい」「疲れ」で片づけず、電解質(K、Ca、Mg)と合わせて確認する |
現場で役立つ+αの看護ポイント
【症例ベース】血ガスの読み解き3例
酸塩基平衡は、「手順を決めて読む」ことで格段に迷いが減ります。
読み解きの手順
① pHでアシデミア/アルカレミアを判定
② PaCO₂とHCO₃⁻のどちらが、pHの変化と一致する方向に動いているか(一次性変化)
③ 代償は予測範囲内か(Winter式など)
④ AGを計算し、開大の有無を確認
⑤ 病歴・IN-OUT・薬剤から原因を絞る
【症例1】70代男性、敗血症性ショックで入院。血圧82/48、末梢冷感あり
| pH | PaCO₂ | HCO₃⁻ | Na | Cl | 乳酸 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7.20 | 28 mmHg | 11 mEq/L | 138 | 102 | 8.5 mmol/L |
①pH 7.20 → アシデミア
②HCO₃⁻低下(11)がpHの低下と一致 → 代謝性アシドーシスが一次性
③Winter式 予測PaCO₂ = 1.5×11 + 8 = 24.5(±2)→ 22.5〜26.5。実測28はやや高め → 呼吸性代償が不十分で、呼吸筋疲労の始まりを疑う
④AG = 138 − (102 + 11) = 25(開大)
⑤乳酸8.5、ショック状態 → 乳酸アシドーシス
この症例での看護の動き
代償が不足し始めている点が危険信号です。呼吸数が頭打ちになっていないか、努力呼吸が強くなっていないか、意識レベルが落ちていないかを確認します。挿管・人工呼吸管理に移行する際は、一時的な換気低下でPaCO₂が上がると、pHが一気に悪化するため、医師と事前に共有しておくことが重要です。
【症例2】60代女性、糖尿病。数日前から嘔気・倦怠感で食事摂取不良。SGLT2阻害薬を内服中、血糖は210 mg/dL
| pH | PaCO₂ | HCO₃⁻ | Na | Cl | β-ヒドロキシ酪酸 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7.18 | 22 mmHg | 8 mEq/L | 136 | 100 | 5.2 mmol/L(高値) |
①pH 7.18 → アシデミア
②HCO₃⁻低下 → 代謝性アシドーシスが一次性
③Winter式 予測PaCO₂ = 1.5×8 + 8 = 20(±2)→ 18〜22。実測22は範囲内 → 適切な代償
④AG = 136 − (100 + 8) = 28(高度開大)
⑤高血糖でない、SGLT2阻害薬内服、食事摂取不良、ケトン高値 → 正常血糖DKA
この症例での看護の動き
血糖値が高くないために「違うだろう」と判断され、診断が遅れやすい症例です。SGLT2阻害薬を内服中の患者さんが、嘔気・腹痛・倦怠感を訴えたら、血糖が正常でもケトンを確認する、という視点が早期発見につながります。インスリン投与開始後は、低K血症の急速な進行に注意し、心電図と血清Kのモニタリングを継続します。
【症例3】50代男性、幽門狭窄による持続嘔吐が1週間。脱水あり、起立時にふらつき
| pH | PaCO₂ | HCO₃⁻ | Na | K | Cl |
|---|---|---|---|---|---|
| 7.52 | 50 mmHg | 40 mEq/L | 138 | 2.8 | 82 |
①pH 7.52 → アルカレミア
②HCO₃⁻上昇(40)がpHの上昇と一致 → 代謝性アルカローシスが一次性
③HCO₃⁻が正常(24)より16上昇 → PaCO₂は概ね0.7×16 ≒ 11上昇 → 予測PaCO₂ ≒ 51前後。実測50は範囲内 → 代償性の低換気
④AG = 138 − (82 + 40) = 16(やや高め。脱水・アルブミン濃縮・アルカレミアによる乳酸増加を考慮)
⑤持続嘔吐でH⁺とCl⁻を喪失、脱水(有効循環血漿量減少)、低K、低Cl → Cl反応性の代謝性アルカローシス
この症例での看護の動き
このタイプは生理食塩水の輸液でClと循環血漿量を補うと改善するのが特徴です。同時に低K血症の補正が必要になります。呼吸が浅くなるためSpO₂が下がることがありますが、この低換気は代償反応であり、酸素投与だけで解決する問題ではないことを理解しておくと、報告時の説明が的確になります。心電図でU波やQT延長がないか、筋力低下や腸蠕動の低下が起きていないかも併せて観察します。
「ドクターコール前」に整理する4点セット
血ガスで異常値が出たとき、報告までの数分間で次の4点を整理しておくと、伝わりやすくなります。
- バイタルのトレンド(呼吸数・脈拍・血圧・意識の時系列)
- 背景因子(基礎疾患、内服薬、IN-OUT、嘔吐・下痢の状況)
- 血ガスと検査値(pH、PaCO₂、HCO₃⁻、AG、乳酸、K、血糖)
- 自覚症状と身体所見(息苦しさ、しびれ、傾眠、冷感、腹痛)
例:「呼吸数32回で深い呼吸が続いています。pH 7.20、HCO₃⁻11、乳酸8.5、AG25。血圧は1時間で30mmHg低下し、末梢冷感とCRT延長があります。呼吸性代償がやや不十分で、疲労が心配です」
アシドーシスの補正で「戻しすぎ」を避ける
重炭酸ナトリウムの投与は、すべての代謝性アシドーシスに有効というわけではありません。投与後はCO₂産生による細胞内アシドーシスの助長、低Ca血症、高Na血症、容量負荷に注意します。投与の適応や速度は医師の判断になりますが、投与後のpH、K、Ca、Na、換気状態を再確認するタイミングを、あらかじめ確認しておくと慌てずに済みます。
アルカローシスは「症状が地味」だから先に拾いにいく
アシドーシスは頻呼吸や循環不全など目立つ所見が出やすい一方、アルカローシスは「しびれる」「つる」「ふらつく」「なんとなく元気がない」という訴えから始まりがちです。嘔吐、胃管排液、利尿薬、低Kが重なっている患者さんでは、症状が出る前からK・Ca・Mgを含めた採血のタイミングを医師と相談しておくと、先手が打てます。
補正中の低K血症に注意
DKAでインスリンを開始したとき、アシドーシスを補正したとき、アルカローシスで利尿薬を使っているとき。Kは細胞内外を移動し、予想以上に変動します。心電図モニターで波形の変化をこまめに確認し、Kの再検タイミングを医師と共有することが安全につながります。