メンデルソン症候群について

メンデルソン症候群について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

術後の患者さん、意識レベルが低下した患者さん、あるいは急変対応の場面で、嘔吐と誤嚥に遭遇したこと、ありませんか?「吐物を誤嚥した」と聞くと、多くの人が細菌性の誤嚥性肺炎をイメージすると思いますが、実はもう一つ、”化学的な”劇症型の肺障害が存在することをご存知でしょうか。

それが「メンデルソン症候群」です。麻酔導入時や意識障害時に酸性の胃内容物を誤嚥することで、細菌感染ではなく胃酸そのものが肺胞を焼くように傷害し、誤嚥から数時間以内に急激な呼吸不全へと進行する、非常にスピード感のある病態です。手術室看護師だけでなく、病棟や在宅の現場でも遭遇しうる急変パターンとして、今日はこのメンデルソン症候群を深掘りしていきます。


目次

サクッと復習!疾患の概要

メンデルソン症候群とは、強酸性(pH2.5以下とされる)の胃内容物を誤嚥することで引き起こされる化学性肺臓炎(Chemical Pneumonitis)を指します。もともとは1946年に産科麻酔での誤嚥事故を報告した医師の名前に由来しており、細菌感染による誤嚥性肺炎とは病態機序が異なる点が最大の特徴です。

原因としては、全身麻酔導入時(特に緊急手術で絶飲食が徹底できていないケース)、意識障害時の嘔吐、経管栄養チューブの誤挿入や自己抜去に伴う逆流嘔吐などが挙げられます。

症状は誤嚥直後から急速に進行し、気管支攣縮、頻呼吸、チアノーゼ、喘鳴、ピンク色の泡沫状痰が特徴的です。重症化するとARDS(急性呼吸窮迫症候群)へと移行し、致死率が高くなる点も見逃せません。

治療は、気道確保・酸素投与を最優先とし、必要に応じて気管内吸引、気管挿管・人工呼吸管理を行います。ステロイドの有効性については議論があり、細菌性肺炎への移行を見越して抗菌薬投与が検討されるケースもあります。


観察ポイント&根拠

メンデルソン症候群は「誤嚥した瞬間」よりも、その後数分〜数時間の経過でどう病態が進むかを追いかける視点が命綱になります。

観察項目観察ポイント根拠・予測
誤嚥直後の呼吸状態の変化誤嚥を確認した直後から、呼吸回数、SpO2、呼吸様式(陥没呼吸や鼻翼呼吸の有無)を1〜2分おきに継続して測定し、経時的に記録する。胃酸による肺胞上皮の化学損傷は、誤嚥した瞬間から数分〜数時間かけて進行性に悪化するのが特徴です。誤嚥直後にSpO2が保たれていても安心せず、「これから悪化する可能性がある」という前提で継続観察する視点が必要です。
気道分泌物の性状気管内吸引を行う際、吸引物が「泡沫状で、ピンク色を帯びていないか」を目視で確認し、性状と量を記録する。ピンク色泡沫状痰は、化学損傷による肺毛細血管透過性の亢進を反映した肺水腫(非心原性肺水腫)のサインです。この所見が出現した場合は、ARDSへの移行を強く疑い、ドクターコールの緊急度を一段階引き上げる判断材料になります。
聴診所見の変化誤嚥直後だけでなく、1時間後、2時間後と時間を空けて肺野全体を聴診し、副雑音の性質(wheeze:気管支攣縮によるものか、coarse crackles:肺水腫によるものか)の変化を追う。誤嚥直後はwheeze(気管支攣縮)が主体でも、時間経過とともにcoarse cracklesへと変化していく場合、肺胞レベルでの障害が進行しているサインと捉えられます。1回の聴診で判断せず、経時的な変化のトレンドを見る視点がアセスメントの精度を上げます。
動脈血液ガス分析(ABG)のPaO2/FiO2比血液ガスデータが出たら、単純な酸素化の数値だけでなく、P/F比(PaO2 ÷ FiO2)を計算し、300を下回っていないかを確認する。P/F比300以下はARDSの診断基準の一つです。急速に低下していく場合、重症化のスピードが速いことを意味するため、人工呼吸器管理への移行判断を医師と早めに共有する材料になります。
体温の推移誤嚥直後から数時間は化学性の炎症反応による発熱(無菌性の発熱)が見られることがあるため、その後数日の発熱パターンの変化(一度解熱傾向にあったのに再度上昇する二相性のパターン)に注目する。誤嚥直後の発熱は化学性炎症によるものですが、数日後に再度発熱が見られる場合は、二次的な細菌性肺炎の合併を疑うサインです。この視点を持っておくと、「熱があるから抗菌薬」ではなく「発熱パターンから細菌感染の合併を疑う」という一段深いアセスメントに繋がります。

患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?

これは、術後や意識障害から回復した患者さんが、誤嚥した記憶を断片的に語る際に「さっき吐いた時、変な味がして、それからちょっと息苦しい気がします」と訴えることがあります.この言葉を軽く流してしまうと、メンデルソン症候群の初期症状である気道の違和感や呼吸苦のサインを見逃してしまうリスクがあります。

この言葉の裏のニード
「本当に体に異変が起きているのではないか」という身体的な不安と、「うまく説明できないけれど、何かがおかしい」という言語化しきれない違和感の両方が隠れています。ここで「吐いた後だから、しんどいのは当然ですよ」で終わらせず、具体的にフィジカルアセスメントへ繋げる会話をすることが大切です。

対応アクションと会話例

患者さん:「さっき吐いた時、変な味がして、それからちょっと息苦しい気がします」

看護師:「教えてくださってありがとうございます。息苦しさは、息を吸う時と吐く時、どちらの方がつらい感じがしますか?あと、咳をした時に痰が絡む感じはありますか?」

患者さん:「吸う時がちょっと苦しくて……あと、なんか喉がヒューヒューする感じもあります」

このように、「いつから」「どんな性質の呼吸苦か」「随伴症状はあるか」を具体的に掘り下げて聴取することで、単なる誤嚥後の不快感なのか、気管支攣縮のサインなのかを見極める材料が集まります。その場ですぐにSpO2測定と聴診を行い、「今の状態を記録として残し、変化があったらすぐ対応できるように準備しておきますね」と伝えると、患者さんは「ちゃんと自分の変化を見てもらえている」という安心感を抱きやすいです。


現場で差がつく看護のコツ

工夫・アイデア具体的な方法それによる効果
誤嚥発見時の「側臥位・頭低位」の即時対応嘔吐や逆流による誤嚥を発見した瞬間、顔を横に向けるだけでなく、可能であれば体幹ごと側臥位にし、頭部をやや低くする体位を素早く取る。顔だけ横に向けても、体幹が仰臥位のままだと吐物が重力で気管方向へ流れ込みやすい状態が続きます。体幹ごと側臥位にすることで、吐物が口腔外へ排出されやすくなり、追加の誤嚥を防ぐことができます。
吸引の「優先順位」を口腔内から誤嚥直後の吸引は、まず口腔内・咽頭の吐物を先に吸引し、その後で気管内吸引に移るという順番を徹底する。口腔内に残った吐物を放置したまま気管内吸引を行うと、吸引による陰圧や体位変換の刺激で、残存していた吐物が再度気管へ流れ込むリスクがあります。口腔内→気管内という順番を徹底することで、二次的な誤嚥を防げます
経管栄養チューブ挿入時の「聴診+pH確認」の併用経管栄養チューブ挿入後の位置確認で、気泡音の聴診だけに頼らず、可能な限り吸引した内容物のpH試験紙での確認(pH5.5以下であれば胃内容物である可能性が高い)を併用する。気泡音の聴診だけでは、先端が食道や気管にあっても誤って「胃に届いている」と判断してしまうケースが報告されています。pH確認を組み合わせることで、誤挿入による逆流・誤嚥のリスクを大きく減らせます。
麻酔導入前の「絶飲食時間」の再確認緊急手術や、患者さんの申告に不安がある場合は、カルテ上の最終飲水・食事時間だけでなく、本人や家族に直接「最後に何を、いつ口にしたか」を口頭で再確認する。緊急入院の患者さんは、本人の記憶が曖昧だったり、家族からの情報が不正確だったりすることがあります。カルテの記載を鵜呑みにせず、複数のルートから情報を確認することが、フルストマック(胃内容物充満状態)での麻酔導入という最大のリスク因子を回避する第一歩になります。

新人さんが陥りやすいミスへの対策

新人さんが陥りがちなのが、「誤嚥直後にSpO2が保たれていたから大丈夫」と判断して、その後の継続観察が疎かになってしまうことです。

嘔吐と誤嚥を発見した直後、慌てて吸引をして、SpO2が95%以上あることを確認すると、「よかった、大丈夫そうだ」と、ついそこで一区切りついた気持ちになってしまうんですよね。

でも、メンデルソン症候群の怖さは、まさにその「誤嚥直後は安定して見える」という点にあります。胃酸による肺胞障害はこれから進行していく病態なので、その瞬間の数値だけで安心してしまうと、数時間後の急変対応が後手に回ってしまいます。

新人の頃は、「異常があったら報告」という発想に偏りがちで、「今は正常だけど、これから悪化するかもしれないから、あらかじめ報告の準備をしておく」という一歩先を見た視点がなかなか持てないことが多いです。でも、誤嚥という事実を確認した時点で、「今は安定していても、これから呼吸状態が変化する可能性がある患者さん」として、次の観察のタイミングをあらかじめ決めておくと、急変時にも慌てず動けるようになります。「誤嚥=その場の対応で終わり」ではなく、「誤嚥=これから数時間の経過観察が本番」という捉え方をしてみると、視野がぐっと広がりますよ。


参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次