中心静脈栄養(TPN)について

中心静脈栄養(TPN)の基本と看護のポイントを徹底解説

あずかん

中心静脈栄養(TPN)は、消化管が使用できない、または使用しても十分な栄養を吸収できない患者さんに対して、心臓に近い太い静脈(中心静脈)から高カロリーの輸液を投与し、生命維持や治療に必要な栄養を補給する方法です。
この記事では、中心静脈栄養の基本である病態生理から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。

目次

中心静脈栄養が必要となる病態生理

中心静脈栄養は、経口摂取や経腸栄養が不可能、または不十分な場合に適応となります。これは、消化管の機能が著しく低下しているか、安静を保つ必要があるためです。

具体的には、以下のような状態が挙げられます。

消化管の機能不全
腸閉塞(イレウス)、重度の炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)、短腸症候群など、消化・吸収能力が著しく低下している状態。
消化管の安静
消化管の手術後、消化管出血、重症膵炎など、消化管を安静に保ち、治癒を促進する必要がある状態。
重度の栄養障害
がん化学療法による重度の口内炎や食欲不振、広範囲熱傷など、大量のカロリーを必要とするが経口摂取が困難な状態。

これらの状態では、末梢静脈からの輸液では十分なカロリーを投与できないため、高濃度の栄養素を安全に投与できる中心静脈が選択されます。

適応となる原因・疾患

中心静脈栄養の適応となる具体的な原因や疾患は多岐にわたります。

分類具体的な疾患・状態
消化器疾患腸閉塞
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)
短腸症候群
難治性下痢
消化管瘻
急性重症膵炎
外科手術後大規模な消化管切除術後
縫合不全のリスクが高い場合
術後合併症による長期の経口摂取不能
がん化学療法や放射線治療による重度の口内炎・食道炎
消化管閉塞
悪液質
その他広範囲熱傷
重症感染症
意識障害による長期の経口摂取不能
極低出生体重児

中止や変更を検討する症状(合併症)

中心静脈栄養の管理において、合併症の早期発見は非常に重要です。注意すべき主な症状は以下の通りです。

カテーテル関連の合併症

  • カテーテル感染症: 発熱、悪寒、戦慄、カテーテル刺入部の発赤・腫脹・疼痛・膿の排出。重篤化すると敗血症に至る可能性があります。
  • カテーテル閉塞: 輸液の滴下不良、抵抗感、血液の逆流が見られない。
  • 血栓症: カテーテル留置側の腕や頸部の腫脹、疼痛。肺血栓塞栓症を合併すると、突然の呼吸困難や胸痛が出現します。

代謝性の合併症

  • 高血糖: 口渇、多飲、多尿、意識レベルの低下。
  • 低血糖: (特に輸液を急に中断した場合)冷や汗、動悸、手指の震え、意識障害。
  • 肝機能障害: 黄疸、AST・ALTの上昇。
  • 電解質異常: 倦怠感、脱力、不整脈など、異常のある電解質によって症状は様々です。

これらの症状が見られた場合は、速やかに医師に報告し、原因の特定と対処を行う必要があります。

治療・対症療法

中心静脈栄養はそれ自体が治療法ですが、管理中には様々な合併症が生じる可能性があり、それらに対する治療や対症療法が必要になります。

  • カテーテル感染症
    感染が疑われた場合、血液培養を採取し、原因菌を特定します。多くの場合、カテーテルの抜去と抗生剤の投与が必要となります。
  • カテーテル閉塞
    薬剤による閉塞の場合は、血栓溶解薬(ウロキナーゼなど)の注入を試みることがあります。効果がなければカテーテルを交換します。
  • 高血糖
    インスリンの投与量を調整したり、輸液の糖濃度や投与速度を見直したりします。
  • 肝機能障害
    脂肪乳剤の投与量や種類の変更、必須微量元素の補充などを検討します。原因がはっきりしない場合、TPNの一時的な中止も考慮されます。
  • 電解質異常
    輸液製剤に含まれる電解質量を調整し、是正します。

看護のポイント

カテーテルの管理

  • 刺入部の観察
    毎日、刺入部の発赤、腫脹、疼痛、熱感、滲出液の有無を観察します。透明なドレッシング材を使用し、汚染や剥がれがないか確認します。
  • 清潔操作の徹底
    輸液ラインの接続や薬剤の投与時は、厳重な清潔操作(手指衛生、ハブの消毒)を徹底し、感染を予防します。
  • 確実な固定
    カテーテルが自己抜去されたり、屈曲したりしないよう、確実に固定します。

輸液の管理

  • 正確な投与速度の維持
    輸液ポンプを使用し、指示された速度で正確に投与します。急激な速度変更や中断は高血糖や低血糖のリスクを高めるため、自己判断で行ってはいけません。
  • 配合変化の注意
    他の薬剤を混注する際は、配合変化(沈殿、白濁など)が起こらないか、薬剤師に確認します。特に脂肪乳剤を含む輸液は注意が必要です。

全身状態のモニタリング

  • バイタルサイン
    体温、血圧、脈拍、呼吸状態を定期的に測定し、特に感染兆候である発熱に注意します。
  • 血糖測定
    定期的に血糖値を測定し、高血糖や低血糖の兆候がないか観察します。
  • 水分出納バランス
    IN/OUTを正確に記録し、脱水や浮腫の有無を評価します。体重の変動も重要な指標です。
  • 精神的ケア
    長期間にわたる絶食は、患者にとって大きなストレスとなります。「食べたい」という気持ちに寄り添い、傾聴する姿勢が大切です。口腔ケアを丁寧に行い、口渇感や不快感を緩和することも重要です。
参考資料
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