壊死性筋膜炎について

壊死性筋膜炎とは|病態から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

壊死性筋膜炎は、急速に進行し、生命を脅かす重篤な軟部組織感染症です。早期発見と迅速な治療が救命の鍵となります。この記事では、壊死性筋膜炎の知っておくべき病態生理、原因、症状、治療、そして看護のポイントについて、分かりやすく解説します。


目次

なぜ組織は”壊死”するのか

壊死性筋膜炎は、主に皮下組織の浅筋膜を主座として、細菌感染が引き起こす壊死性炎症です。

通常、皮膚の感染症は表皮や真皮にとどまりますが、壊死性筋膜炎では細菌が筋膜の層に沿って急速に水平方向へ拡大します。この過程で細菌が産生する毒素酵素が、血管の閉塞(血栓形成)を引き起こし、組織への血流を遮断します。血流が途絶えた組織は酸素や栄養を受け取れなくなり、短時間で広範囲にわたって壊死に陥ります。

さらに、この強力な炎症反応はサイトカインストームを引き起こし、敗血症や多臓器不全といった全身性の重篤な合併症につながる危険性が非常に高いのが特徴です。


どんな菌が、なぜ感染するのか

壊死性筋膜炎は、感染する細菌の種類によって主に2つのタイプに分類されます。

TypeⅠ:混合感染( Polymicrobial)

  • 原因菌
    • 好気性菌と嫌気性菌の複数菌による混合感染です。腸内細菌科(大腸菌など)、レンサ球菌属、ブドウ球菌属、バクテロイデス属などが関与します。
  • 特徴
    • 糖尿病、末梢血管疾患、免疫不全などの基礎疾患を持つ患者に多く見られます。手術創や褥瘡、腹腔内感染からの波及が原因となることがあります。

TypeⅡ:単一感染(Monomicrobial)

  • 原因菌
    • 主にA群β溶血性連鎖球菌(GAS)による単独感染です。しばしば「人食いバクテリア」として知られています。
  • 特徴
    • 健常者にも発症し、四肢の小さな外傷(擦り傷、虫刺されなど)から菌が侵入することが多いです。進行が非常に速く、毒素性ショック症候群(TSS)を合併しやすいです。

その他、Vibrio vulnificus(ビブリオ・バルニフィカス)による感染(TypeⅢ)は、海水や魚介類との接触で発症することがあります。


見逃してはいけない危険なサイン

壊死性筋膜炎の初期症状は、蜂窩織炎と似ており、診断が難しい場合があります。しかし、進行が非常に速いため、以下の特徴的な症状に注意が必要です。

激しい疼痛
見た目の皮膚所見(発赤、腫脹)に不釣り合いな、非常に強い痛みを訴えます。「experience pain out of proportion to physical findings」として知られる重要な徴候です。
急速に拡大する発赤・腫脹
発赤や腫脹が時間単位で急速に広がります。
皮膚色の変化
進行すると、皮膚は暗赤色から紫色、さらには黒色へと変化します。これは組織の壊死を示唆します。
水疱・血疱の形成
皮膚に水ぶくれや血の混じった水ぶくれ(血疱)が現れます。
握雪感
皮下組織で産生されたガスにより、触ると雪を握ったような「プチプチ」「ザクザク」とした感触(クレピタス)を認めることがあります。
全身症状
発熱、悪寒、頻脈、血圧低下などの敗血症の兆候が急速に出現・悪化します。


治療・対症療法

壊死性筋膜炎の治療は、時間との戦いです。診断がつき次第、迅速に以下の治療を組み合わせた集学的治療を開始します。

緊急外科的デブリードマン

  • 最も重要な治療です。壊死した組織を可及的速やかに、かつ広範囲に切除します。
  • 壊死範囲は見た目以上に広がっていることが多いため、健常に見える組織を含めて切除する必要があります。
  • 感染が制御できるまで、24〜48時間ごとに繰り返しデブリードマン(second look operation)が行われます。

広域抗菌薬の投与

  • 診断後、直ちに点滴で抗菌薬を開始します。
  • 初期治療では、TypeⅠ、TypeⅡの両方をカバーするため、広域スペクトラムを持つ薬剤(例:カルバペネム系+クリンダマイシン、またはペニシリンG+クリンダマイシンなど)が選択されます。
  • クリンダマイシンは、細菌の毒素産生を抑制する目的で併用されることが重要です。

全身管理・集中治療

  • 敗血症性ショックに対する循環管理(大量輸液、昇圧剤の使用)が不可欠です。
  • 呼吸不全に対する人工呼吸器管理、急性腎障害に対する血液浄化療法など、多臓器不全への対応が必要となる場合があります。
  • 免疫グロブリン製剤(IVIG)の大量投与が、毒素を中和する目的で考慮されることもあります。

看護のポイント

迅速なアセスメントと報告

  • バイタルサインの綿密なモニタリング: ショックの早期発見のため、血圧、脈拍、呼吸数、体温、SpO2を頻回に測定します。
  • 局所所見の観察: 疼痛の程度(「昨日より痛みが強い」などの訴えは超重要!)、範囲、皮膚の色調、腫脹の拡大を注意深く観察し、経時的な変化を記録・報告します。マーキングをして拡大の程度を可視化するのも有効です。
  • 全身状態の観察: 意識レベル、尿量、末梢の循環状態など、敗血症の徴候を見逃さないようにします。

周術期看護

  • 術前: 緊急手術となるため、迅速な準備とともに、患者と家族への精神的支援が重要です。不安を傾聴し、医師からの説明を補足します。
  • 術後: 創部の管理(ドレナージ、出血の観察)、鎮痛薬の適切な使用による疼痛管理、栄養管理が重要です。

感染管理

  • 創部からの排液は感染源となるため、スタンダードプリコーション(標準予防策)を徹底します。
  • 接触感染予防策が必要となる場合が多いため、ガウンや手袋の適切な着脱を遵守します。

精神的・社会的サポート

  • ボディイメージの変容へのケア: 広範囲のデブリードマンや四肢切断により、患者は大きな喪失感を抱きます。受容のプロセスに寄り添い、感情の表出を促します。
  • せん妄への対応: 集中治療室(ICU)での管理や敗血症により、せん妄を発症しやすくなります。睡眠・覚醒リズムの調整や環境調整を行います。
  • 家族へのケア: 突然の出来事に家族も大きな衝撃を受けます。家族の不安や疑問に耳を傾け、情報提供や精神的支援を行います。
  • 退院支援: 創傷治癒の状態に応じて、形成外科医や理学療法士、ケースワーカーなど多職種と連携し、リハビリテーションや社会復帰に向けた支援を早期から計画します。
参考資料
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