新人指導が難しい…「当たり前」を言語化する壁とハラスメント問題
全国の看護師の皆さん、日々の業務、そして後輩指導、本当にお疲れ様です。 中堅看護師として、新人や若手看護師の教育に携わる機会が増えてきました。キラキラした目で「お願いします!」と言われると、身が引き締まる思いと同時に、ずっしりとした責任を感じます。
そして、毎年思うのです。「後輩に教えるって、なんて難しいんだ…!」と。
今回は、私が新人教育の現場で直面している「指導の難しさ」について、正直な気持ちを綴ってみたいと思います。同じように悩む指導者の方、そしていつか指導する側になるであろう若手の皆さんにも、何か伝わるものがあれば嬉しいです。
壁1:自分の「当たり前」が、相手の「当たり前」ではない。言語化の難しさ
私たちが日常的に、まるで呼吸をするかのように行っている業務。患者さんとの何気ない会話から状態を察知するコミュニケーション、無意識レベルで安全に配慮している看護技術、山ほどある書類の効率的なさばき方…。
これらはすべて、長年の経験の中で培われた「暗黙知」です。
しかし、新人にとってはすべてが未知の世界。この「暗黙知」を一つひとつ「言語化」し、「形式知」として伝えなければなりません。
「患者さんの表情がいつもと違うから、ちょっと詳しく話を聞いてみよう」 「この処置をするときは、こういう順番で物品を準備するとスムーズだよ」
自分の中では当たり前の思考プロセスや手順も、「なぜそうするのか?」という理由や背景まで含めて言葉にしないと、新人には伝わりません。この言語化の作業が、想像以上に難しいのです。自分の看護を一つひとつ分解し、再構築するような感覚。毎年、自分自身の看護を見つめ直す、良い機会にもなっています。
壁2:「伝えた」と「伝わった」は違う。理解度を確認する責任
指導は、伝えたら終わりではありません。むしろ、そこからが本番です。
ちゃんと意図通りに理解してくれたかな?
間違えて覚えていないかな?
一人で実践できるかな?
この確認作業もまた、骨の折れる仕事です。一度教えたことを、違う場面で実践してもらい、フィードバックする。もし間違っていたら、なぜ間違えたのかを一緒に考え、もう一度教え直す。この根気のいる繰り返しが、新人の確実な成長につながると信じていますが、自分の業務と並行して行うのは正直、体力的にも精神的にも大変です。
自分も新人だった頃、先輩はこんな風に根気強く見守ってくれていたんだなと、今更ながら頭が下がる思いです。
壁3:これってパワハラ?指導とハラスメントの境界線
そして、近年特に指導を難しくしていると感じるのが、ハラスメントの問題です。
もちろん、いかなるハラスメントも許されるべきではありません。人格を否定するような叱責や、理不尽な要求は論外です。
しかし、患者さんの命を預かる医療現場では、時に厳しく指導しなければならない場面があります。緊急時や、インシデントに直結するような危険な行為に対しては、強い口調で注意せざるを得ないことも。
「今のやり方は危ない!」 「なぜ報告しなかったの!」
その一言が、後輩にはどう受け止められるだろうか。「パワハラだ」と思われないだろうか…。そんな考えが頭をよぎり、指導にブレーキがかかってしまう瞬間があるのも事実です。
「良かれと思って」の指導が、意図せず相手を傷つけ、ハラスメントと捉えられてしまうかもしれない。このジレンマは、教育現場を非常に複雑にし、指導者側の心理的な負担を大きくしているように感じます。(これはあくまで、私個人の意見ですが…)
私たちの反省と、これからの指導で心がけたいこと
これらの壁にぶつかりながらも、私なりに心がけていることがあります。
「なぜ」をセットで教える
手順だけを教えるのではなく、「なぜなら〜だから」と理由を必ず伝える。背景を理解することで、応用力が身につき、忘れにくくなります。
I(アイ)メッセージで伝える
「あなた(You)はなぜできないの」ではなく、「私(I)はこうしてくれると助かるな」「私(I)はここが心配だから、もう一度一緒にやってみようか」と、自分の気持ちを主語にして伝える。これにより、相手を追い詰めるのではなく、協力的な関係性を築きやすくなります。
指導者自身も完璧ではないと認める
「私も昔はよく失敗したよ」と自分の経験を話したり、「この件は私も自信ないから、一緒に確認しよう」と正直に伝えたりする。指導者も完璧な人間ではないと示すことで、新人も安心して質問や相談がしやすくなります。
指導の場とタイミングを選ぶ
他のスタッフや患者さんがいる前での厳しい指摘は避け、後でカンファレンスルームなどで冷静にフィードバックする。感情的な叱責にならないよう、一呼吸置くことも大切です。
まとめ
新人教育は、本当に一筋縄ではいきません。自分の無力さを感じたり、どうすれば伝わるのかと悩んだりすることの連続です。
しかし、後輩が少しずつ成長し、一人でできることが増え、患者さんから「ありがとう」と言われている姿を見た時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。そして何より、教えることを通して、私たち指導者自身が最も多くを学んでいるのかもしれません。
この記事が、同じように新人指導に悩む全国の指導者の皆さんの心を、少しでも軽くできたら嬉しいです。私たちも悩みながら、一緒に成長していきましょう。
