骨延長について

骨延長(脚長差・低身長)の治療と看護のポイントを徹底解説

あずかん

骨延長術は、生まれつきの四肢の長さの違い(四肢長不等、脚長差)や、病気や怪我による変形、低身長などを治療するために行われる整形外科の手術です。創外固定器という特殊な器具を使い、骨を少しずつ伸ばしていく、ダイナミックでとても興味深い治療法です。
患者さんは長期にわたる治療とリハビリが必要になるため、看護師の役割は非常に重要になります。この記事では、骨延長の基本から、具体的な看護のポイントまでを分かりやすく解説します。

目次

骨が伸びるしくみ「仮骨延長法」

骨延長は、骨が折れた後に治っていく自然なプロセス(治癒機転)を応用した「仮骨延長法」という原理に基づいています。

  1. 骨切り術
    • まず、手術で骨を人工的に切ります。これは、意図的に「骨折」した状態を作り出すためです。
  2. 創外固定器の装着
    • 切った骨の両端を、創外固定器という金属のフレームで皮膚の外からピンやワイヤーで固定します。
  3. 待機期間
    • 手術後5日~1週間ほど、骨が治り始めるのを待ちます。この期間に、骨折した部分に血腫が形成され、徐々に仮骨と呼ばれる新しい柔らかい骨の組織が作られ始めます。
  4. 延長期間
    • 待機期間が終わると、患者自身や家族が、1日に約1mmのペースで創外固定器のネジを回し、骨と骨の間を少しずつ引き離していきます。
  5. 骨の新生
    • 引き離された仮骨の部分では、張力に反応して、新しい骨(骨芽細胞)や血管がどんどん作られていきます。これを張力刺激による骨新生と呼びます。この張力こそが、骨延長の最も重要な鍵となります。
  6. 硬化期間
    • 目標の長さまで骨が伸びたら、延長を止め、新しくできた骨が十分に硬く、体重を支えられるようになるまで待ちます。この期間は、延長期間の約2〜3倍かかると言われています。

この一連の流れによって、骨だけでなく、周囲の筋肉、神経、血管、皮膚といった軟部組織も一緒に伸びていきます。

骨延長が必要となる疾患

骨延長が必要となるのは、主に以下のような原因や疾患です。

  • 先天性の四肢長不等(脚長差)
    • 生まれつき左右の脚の長さが違う場合。片側性の肥大や低形成(例:血管奇形、線維性骨異形成症など)が原因となります。
  • 後天性の四肢長不等
    • 骨折後の変形治癒や、成長軟骨板の損傷、骨髄炎などによって、成長期に片方の脚が短くなってしまった場合。
  • 低身長
    • 軟骨無形成症や軟骨低形成症など、骨の成長に障害がある疾患による低身長。
  • 骨の変形
    • O脚やX脚などの変形(内反・外反変形)、骨折後の偽関節(骨がくっつかない状態)や変形治癒の矯正。
  • 骨欠損
    • 骨腫瘍の切除後や、重度の開放骨折などで骨の一部が失われた場合。

治療中に見られる主な症状

骨延長の治療期間中、患者さんは様々な身体的・精神的苦痛を経験します。

  • 疼痛
    • ピン刺入部痛: 創外固定器のピンが皮膚や筋肉を貫いている部分の痛み。感染のサインである可能性もあります。
    • 延長に伴う痛み: 骨だけでなく、筋肉や神経が引き伸ばされることによって生じる痛み。特に夜間に強く感じることが多いです。
  • 関節拘縮
    • 骨が伸びるスピードに筋肉の伸長が追いつかず、関節が硬くなってしまう状態。特に足関節の尖足拘縮は起こりやすく、予防が非常に重要です。
  • ピン刺入部の感染
    • ピン周囲の皮膚が赤くなる、熱を持つ、腫れる、膿が出るといった症状が見られます。悪化すると骨髄炎に至るリスクもあります。
  • 神経・血管障害
    • 骨と一緒に神経や血管も引き伸ばされますが、過度な伸長や圧迫により、しびれ、麻痺、血行不良などが起こることがあります。
  • 精神的ストレス
    • 長期間にわたる治療、痛み、見た目の変化、日常生活の制限(入浴など)から、不安、抑うつ、不眠などを訴える患者が少なくありません。

治療・対症療法

上記の症状に対して、以下のような治療や対症療法が行われます。

  • 疼痛管理
    • 薬物療法: NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬を定期的に使用します。神経障害性の痛みには、プレガバリンなどが処方されることもあります。
    • クーリング: 痛みや腫れが強い部分を冷やします。
  • 関節拘縮の予防と治療
    • リハビリテーション: 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)と連携し、関節可動域訓練(ROM訓練)や筋力トレーニングを積極的に行います。
    • 装具療法: 尖足予防のために、夜間や安静時にスプリントなどの装具を装着します。
  • ピン感染の管理
    • ピンケア: 毎日、ピン刺入部の洗浄・消毒を行います。これは看護師の重要な役割であり、患者や家族への指導も必要です。
    • 抗菌薬の投与: 感染の兆候が見られた場合、経口または点滴で抗菌薬を投与します。
  • 神経・血管障害への対応
    • 延長ペースの調整: しびれや強い痛みが出現した場合、一時的に延長を中止したり、ペースを緩めたりします。
    • 創外固定器の調整: 神経を圧迫しているピンやワイヤーがある場合、位置を調整することもあります。
    • 定期的なモニタリング: 足先の冷感、チアノーゼ、しびれの有無、足背動脈の触知などを定期的に確認します。
  • 精神的サポート
    • 傾聴と共感: 患者の不安や辛い気持ちに寄り添い、話を聞く姿勢が大切です。
    • 情報提供: 治療の見通しやセルフケアの方法を分かりやすく説明し、患者が主体的に治療に参加できるよう支援します。
    • 多職種連携: 必要に応じて、臨床心理士や精神科医との連携も検討します。

看護のポイント

疼痛のコントロール

  • 痛みの評価
    • NRSなどを用いて、痛みの強さ、部位、性質(ズキズキ、ジンジンなど)を詳細にアセスメントします。
  • タイミングの良い鎮痛薬の使用
    • 「痛くなってから」ではなく、痛みが予測されるリハビリ前や、定期的な内服で痛みをコントロールする「予防的投与」が効果的です。
  • 非薬物療法の活用
    • 安楽な体位の工夫(クッションの使用)、クーリング、気分転換(音楽を聴く、好きなDVDを見るなど)を促します。

ピン刺入部の管理と感染予防

  • 観察項目
    • 発赤、腫脹、熱感、疼痛、排膿の有無を毎日観察します。ピンの緩みがないかも確認します。
  • ピンケアの実施と指導
    • 病院のプロトコルに沿って、洗浄・消毒を行います(シャワー浴での洗浄が推奨されることが多いです)。
    • 患者や家族が退院後もセルフケアできるよう、入院中から手技を一緒に確認し、自立を促します。なぜピンケアが必要なのか、感染するとどうなるのか、という根拠も合わせて説明することが重要です。

関節拘縮の予防

  • リハビリの重要性の説明
    • 「なぜ痛くても動かさないといけないのか」を患者が理解できるよう、関節が硬くなるメカニズムと、拘縮が将来の歩行に与える影響を丁寧に説明します。
  • 多職種との連携
    • PTやOTと患者さんのリハビリの進捗状況や課題を共有し、看護ケアに活かします。例えば、「PTの訓練ではここまで足首が曲がったので、病室でもこの角度を保つ練習をしてみましょう」といった声かけができます。
  • 日常生活動作(ADL)の工夫
    • ベッド上での自主訓練メニューを一緒に考えたり、装具の装着を促したりします。

神経・血管障害の早期発見

  • バイタルサインと患肢の観察
    • 循環: 足先の冷感、色(チアノーゼの有無)、毛細血管再充填時間(CRT)、足背動脈や後脛骨動脈の触知を定期的に行います。
    • 神経: しびれ、感覚の鈍さ(触覚、痛覚)、運動麻痺(足指が動かせるかなど)の有無を確認します。
  • 患者さんからの訴えに注意
    • 「ピリピリする」「感覚が変」といった些細な訴えを見逃さず、すぐに医師に報告します。

精神的サポートと退院支援

  • 信頼関係の構築
    • 日々のコミュニケーションを通じて、患者や家族が何でも相談できる関係を築きます。
  • セルフケア能力の向上
    • 患者自身が「治療の主体者」であるという意識を持てるよう、延長の操作、ピンケア、自主訓練などを早い段階から指導し、自己効力感を高める支援をします。
  • 社会資源の情報提供
    • 退院後の生活(通学、通勤、入浴、移動手段など)に関する不安を傾聴し、必要であれば医療ソーシャルワーカー(MSW)につなぎ、利用できる制度やサービスについて情報提供を行います。
参考資料
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