IgA腎症の病態から看護のポイントまで徹底解説
あずかんIgA腎症は、慢性腎臓病(CKD)の原因となる糸球体腎炎の中で最も頻度の高い疾患です。若年層に多く発症し、症状が乏しいまま経過することも少なくありません。しかし、進行すると末期腎不全に至る可能性もあるため、早期発見と適切な治療、そして長期的な看護が非常に重要になります。
この記事では、IgA腎症の基礎知識から、臨床で役立つ看護のポイントまでを分かりやすく解説します。
IgA腎症とは
IgA腎症は、腎臓の糸球体に異常なIgA(免疫グロブリンA)が沈着することによって引き起こされる腎炎です。
通常、IgAは喉や腸管などの粘膜表面に存在し、病原体の侵入を防ぐ役割(粘膜免疫)を担っています。しかし、IgA腎症の患者では、このIgAの一部(糖鎖異常IgA)が血液中に増加します。この異常なIgAが抗体と結合して免疫複合体を形成し、腎臓の糸球体に沈着します。
糸球体に沈着した免疫複合体は、炎症反応を引き起こします。具体的には、メサンギウム細胞の増殖や、細胞外基質の産生亢進が起こり、糸球体構造が破壊されていきます。これにより、糸球体のろ過機能が障害され、本来であれば体内に保持されるはずのタンパク質や赤血球が尿中へ漏れ出てしまうのです。
この状態が慢性的に続くことで、糸球体は硬化(糸球体硬化)し、腎機能が徐々に低下していきます。
IgA腎症の原因
IgA腎症の根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
遺伝的素因:特定の遺伝子を持つ人が発症しやすいことが報告されている。
免疫異常:扁桃や上気道、腸管などでの慢性的な感染症が、異常なIgAの産生を誘発する一因と考えられている。特に、扁桃炎との関連が強く指摘されており、風邪などをきっかけに血尿が出現することがある。
環境因子:食生活や生活習慣なども発症に関与している可能性が示唆されているが、詳細は不明。
これらの要因が複雑に絡み合い、異常なIgAの産生とそれに続く免疫複合体の形成、糸球体への沈着という一連の流れが起こると考えられています。
IgA腎症の症状
IgA腎症は「静かなる病気」とも呼ばれ、初期には自覚症状がほとんどありません。多くの場合、健康診断などで偶然発見されます。
- 無症候性血尿・タンパク尿
- 最も一般的な症状です。尿潜血検査で陽性となったり、尿中にタンパクが検出されたりします。特に、肉眼的血尿(コーラ色の尿)は、上気道感染(風邪など)の数日後に現れることが特徴的です。
- 浮腫
- 尿中に多くのタンパクが漏れ出る(ネフローゼ症候群)と、血液中のアルブミン値が低下し、血管内の水分が組織に漏れ出して浮腫が生じます。
- 高血圧
- 腎機能の低下に伴い、血圧が上昇します。高血圧はさらに腎臓に負担をかけるため、悪循環に陥りやすくなります。
- 腎機能低下症状
- 進行すると、倦怠感、食欲不振、貧血などの腎不全症状が現れます。
治療・対症療法
IgA腎症の治療目標は、腎機能の低下を抑制し、末期腎不全への進行を防ぐことです。治療方針は、患者の年齢、腎機能、尿タンパクの量、腎生検の組織所見などを総合的に評価して決定されます。
生活習慣の改善と食事療法
- 減塩:高血圧やタンパク尿を改善するために、1日6g未満を目標とします。
- タンパク質制限:腎機能が低下している場合に検討されます。ただし、過度な制限は栄養状態の悪化を招くため、医師や管理栄養士の指導のもとで行います。
- 禁煙:喫煙は腎機能低下の進行を早めるため、禁煙が強く推奨されます。
薬物療法
- 降圧薬(RAS阻害薬):レニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬である、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が第一選択薬です。血圧を下げるだけでなく、尿タンパクを減少させ、腎臓を保護する作用があります。
- ステロイド療法:尿タンパクが多く、腎機能低下のリスクが高いと考えられる場合に用いられます。強力な抗炎症作用・免疫抑制作用により、糸球体の炎症を鎮めます。ただし、感染症や糖尿病、骨粗鬆症などの副作用に注意が必要です。
- 免疫抑制薬:ステロイドで効果が不十分な場合や、副作用で使えない場合に検討されます。
- 抗血小板薬・抗凝固薬:糸球体内の血液凝固を防ぐ目的で使われることがあります。
扁桃摘出術(扁摘)
扁桃が異常なIgA産生の主な原因となっていると考えられる場合、扁桃を摘出する手術が行われます。特に、ステロイド療法と組み合わせる「扁摘パルス療法」は、寛解率が高い治療法として知られています。
看護のポイント
確実な服薬とセルフケア支援
- 服薬指導:降圧薬やステロイドなど、処方された薬剤を正しく内服することの重要性を説明します。特に、RAS阻害薬は自己判断で中断しないよう指導することが大切です。
- 食事・生活指導:管理栄養士と連携し、減塩やタンパク質制限が継続できるよう、具体的な調理法や外食の選び方などを一緒に考えます。患者のライフスタイルに合わせた無理のない目標設定が鍵となります。
- バイタルサインと症状のモニタリング:毎日の血圧測定や体重測定、尿の性状(血尿の有無など)のセルフモニタリングを促し、記録を付けてもらうようにします。変化があった際にすぐに相談できる関係性を築いておくことが重要です。
疾患と治療への理解促進
- 分かりやすい説明:IgA腎症は進行が緩やかであるため、患者自身が病気の重大さを認識しにくいことがあります。病態や治療の必要性、なぜ生活習慣の改善が必要なのかを、図やパンフレットを使いながら根気強く説明します。
- 検査データのフィードバック:定期的な血液検査や尿検査の結果(eGFR、尿タンパク量など)を一緒に確認し、治療の効果や現状を客観的にフィードバックすることで、治療へのモチベーション維持に繋げます。
精神的・心理的サポート
- 不安の傾聴:若年で発症することが多く、「将来、透析になるのではないか」という漠然とした不安を抱えています。患者の言葉に耳を傾け、不安や悩みを表出できるような関わりを心がけます。
- 意思決定支援:治療法の選択(ステロイドや扁摘など)に際して、それぞれのメリット・デメリットを患者が十分に理解し、納得して治療に臨めるように支援します。
- 社会資源の活用:医療費の負担が大きい場合があるため、特定医療費(指定難病)助成制度などの社会資源について情報提供し、必要に応じてソーシャルワーカーへの橋渡しを行います。