機械的イレウスについて

機械的イレウスを徹底解説!

あずかん

看護師として働くうえで、腹痛を訴える患者さんに出会う機会は非常に多いです。その中でも緊急性の高い疾患の一つが「イレウス(腸閉塞)」です。イレウスは、何らかの原因で腸管の内容物が肛門側へ通過できなくなる状態を指します。
今回は、イレウスの中でも物理的な閉塞が原因で起こる「機械的イレウス」に焦点を当て、知っておくべき病態生理、原因、症状について詳しく解説します。


目次

機械的イレウスの病態生理

機械的イレウスの病態を理解するためには、「閉塞」と「血行障害」の2つの側面から考えることが重要です。

閉塞による変化

腸管が物理的に塞がれると、閉塞した部分よりも口側(胃に近い方)に、消化液、ガス、食事の内容物などが溜まっていきます。通常、1日に6〜8リットルもの消化液が分泌されますが、閉塞によってこれらが吸収されず、腸管内にうっ滞します。それにより、以下の変化が起こります。

腸管の内圧上昇
溜まった内容物によって腸管がパンパンに膨れ上がり(腸管拡張)、内圧が上昇します。
嘔吐
腸管内圧の上昇により、内容物が逆流し、激しい嘔吐を引き起こします。
脱水と電解質異常
嘔吐や、拡張した腸管への水分移行(サードスペースへの体液漏出)により、体内の水分が急速に失われ、脱水状態になります。また、消化液に含まれる電解質も失われるため、低カリウム血症や低ナトリウム血症などの電解質異常をきたします。

血行障害による変化(絞扼性イレウスの場合)

特に緊急性が高いのが、腸管の血流が途絶えてしまう「絞扼性イレウス」です。腸管そのものや、腸管を栄養する血管(腸間膜)がねじれたり、何かに締め付けられたりすることで発生します。血行が障害されると、以下の重篤な状態に陥ります。

腸管の壊死
血流が途絶えた腸管は、時間とともに酸素不足に陥り、壊死してしまいます。
穿孔と腹膜炎
壊死した腸管の壁はもろくなり、穴が開く(穿孔する)ことがあります。腸管内容物が腹腔内に漏れ出すと、重篤な感染症である「汎発性腹膜炎」を引き起こします。
敗血症
腹膜炎から細菌が血中に入り込み、全身に感染が広がる「敗血症」に至ると、ショック状態となり生命に危険が及びます。

絞扼性イレウスは、発症から数時間で腸管壊死に至る可能性があり、迅速な診断と緊急手術が必要です。


機械的イレウスの原因

機械的イレウスは、閉塞のメカニズムによって「単純性イレウス」と「絞扼性イレウス」に大別されます。

単純性イレウス(非絞扼性イレウス)

腸管の血行障害を伴わない、単純な閉塞です。

  • 癒着
    最も多い原因です。開腹手術の既往がある場合、術後に腸管同士や腹壁がくっついてしまう「癒着」が起こることがあります。この癒着部分が折れ曲がったり、帯状の癒着(索状物)が腸管を圧迫したりして閉塞を引き起こします。
  • 腫瘍
    大腸がんや小腸腫瘍などが大きくなることで、腸管の内側から物理的に塞いでしまいます。高齢者のイレウスでは、大腸がんが原因であることが少なくありません。
  • その他
    胆石が胆嚢から腸管内に落ちて詰まる(胆石イレウス)、消化管内にできた結石(ベゾアール)、クローン病などの炎症による腸管の狭窄などが原因となることもあります。

複雑性イレウス(絞扼性イレウス)

腸管の血行障害を伴う、緊急性の高いイレウスです。

  • 腸重積
    小腸の一部が、肛門側の小腸内にはまり込んでしまう状態です。血流が途絶えやすく、特に小児に多いですが、成人では腫瘍などが原因で起こることもあります。
  • 鼠径ヘルニア嵌頓
    「脱腸」とも呼ばれる鼠径ヘルニアで、飛び出した腸が元に戻らなくなり、ヘルニアの入り口で締め付けられてしまう状態です。
  • 腸軸捻転
    腸そのものや、腸を支える腸間膜がねじれてしまう状態です。S状結腸や小腸で起こりやすく、急激な腹痛で発症します。
  • 索状物による絞扼
    癒着によってできたヒモ状の組織(索状物)が、腸管に巻き付いて締め付けてしまう状態です。

機械的イレウスの症状

機械的イレウスの主な症状は、「腹痛」「嘔吐」「腹部膨満」「排便・排ガスの停止」の4つです。

腹痛

  • 単純性イレウス: 蠕動運動に合わせて強くなったり弱くなったりを繰り返す、周期的な「疝痛」が特徴です。
  • 絞扼性イレウス: 血流障害による虚血性の痛みのため、周期的ではなく「持続的な激痛」として現れることが多いです。時間の経過とともに痛みは増強します。

嘔吐

  • 閉塞部位が口側に近いほど、早期から頻回の嘔吐が見られます。
  • はじめは胃液や胆汁(黄色〜緑色)ですが、閉塞が長く続くと、腸内細菌が増殖して便のような臭いを伴う「糞便様嘔吐」が見られるようになります。

腹部膨満

  • 腸管内にガスや消化液が溜まることで、お腹が張ってきます。閉塞部位が肛門側に近いほど、膨満感は強くなる傾向があります。
  • 聴診では、腸管の蠕動運動が亢進しているため、”ギュルギュル” “ポコポコ” といった特徴的な金属音が聴取されることがあります。ただし、絞扼性イレウスで腸管が壊死に陥ると、腸管運動が麻痺し、逆に腸蠕動音が消失することもあります。

排便・排ガスの停止

  • 腸管が完全に閉塞すると、便やガスが肛門側へ行かなくなるため、排便や排ガスが止まります。
  • ただし、閉塞部より肛門側の腸に残っていた便やガスが排出されることもあるため、「排便があるからイレウスではない」と安易に判断するのは危険です。

これらの症状が見られた場合は、機械的イレウス、特に絞扼性イレウスを疑い、速やかに医師に報告し、迅速な対応につなげることが極めて重要です。


参考資料
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