高齢者の皮膚乾燥(乾皮症・皮脂欠乏性湿疹)の病態生理から看護のポイントまで徹底解説

高齢の患者さんが「肌がかゆい」「カサカサする」と訴える場面は、臨床で頻繁に遭遇します。単なる乾燥と侮ってはいけません。適切なケアをしないと、強いかゆみから皮膚を掻き壊し、湿疹や感染症につながることもあります。
この記事では、高齢者の皮膚乾燥(乾皮症・皮脂欠乏性湿疹)について、病態生理から原因、症状、治療、そして最も重要な看護のポイントまで、分かりやすく解説します。
目次
高齢者の皮膚乾燥とは
皮膚は、私たちの体を外部の刺激から守る「バリア機能」を持っています。このバリア機能の中心的な役割を担っているのが、皮膚の一番外側にある「角層」です。
角層では、「皮脂」「天然保湿因子(NMF)」「角質細胞間脂質(セラミドなど)」の3つの物質が水分を保持し、皮膚の潤いを保っています。
しかし、高齢になると、これらの物質の産生が減少し、バリア機能が低下します。
皮脂の減少
皮脂腺の機能が低下し、皮膚表面を覆う皮脂膜が薄くなります。これにより、水分の蒸発を防ぎにくくなります。
天然保湿因子(NMF)の減少
角層細胞内で水分を保持する役割を持つNMFが減少し、角層自体の水分量が低下します。
角質細胞間脂質(セラミド)の減少
角層細胞の間を埋め、水分の蒸発を防ぐセラミドが減少。これにより角層の構造が乱れ、バリア機能がさらに低下します。
これらの変化により、皮膚の水分が失われやすくなり、乾燥状態(乾皮症)に陥ります。乾燥がさらに進行し、炎症や強いかゆみを伴うようになると、「皮脂欠乏性湿疹」という状態になります。
皮膚乾燥の原因
高齢者の皮膚乾燥は、加齢による生理的な変化が主な原因ですが、以下のような外的・内的要因も大きく影響します。
- 季節
- 特に空気が乾燥する冬場は、皮膚からの水分蒸発が増え、症状が悪化しやすくなります。夏でも、エアコンの使用により室内が乾燥するため注意が必要です。
- 不適切な入浴習慣
- 熱いお湯での長風呂は、皮脂やセラミドを過剰に洗い流してしまいます。
- ナイロンタオルなどで体をゴシゴシ洗う行為は、角層を傷つけバリア機能を破壊します。
- 洗浄力の強い石鹸やボディソープの使用も、皮脂を奪う原因となります。
- 生活習慣
- 水分摂取量の不足
- 栄養の偏り(特にビタミンAや亜鉛の不足)
- 基礎疾患
- 糖尿病や腎不全などの疾患は、皮膚の乾燥を引き起こすことがあります。
- 服用している薬剤(利尿薬など)の副作用で皮膚が乾燥する場合もあります。
皮膚乾燥による症状
症状は、乾燥の程度によって異なります。
- 乾皮症(初期段階)
- 皮膚がカサカサし、粉をふいたように見える(鱗屑)
- 特にすねや腕、背中、腰まわりに見られやすい
- 軽度のかゆみ
- 皮脂欠乏性湿疹(進行した状態)
- 乾皮症が進行し、強いかゆみが出現
- ひび割れ(亀裂)や赤み(紅斑)を伴う
- 掻き壊すことで、じくじくとした滲出液が出たり、痂皮ができたりする
- かゆみで眠れなくなるなど、QOLの低下につながる
- 掻き傷から細菌が入り、二次感染(伝染性膿痂疹など)を起こすリスクもある
治療・対症療法
治療の基本は「保湿」と「炎症を抑える」
- 保湿剤の使用
- 皮膚の水分を補い、バリア機能をサポートするために最も重要です。
- ヘパリン類似物質、尿素、ワセリンなどが処方されます。
- 塗るタイミング: 入浴後5分以内など、皮膚がまだ潤っているうちに塗るのが最も効果的です。
- 塗る量: ティッシュが軽く貼りつく程度、皮膚がテカるくらいを目安に、たっぷりと塗布します。
- 塗り方: すり込まず、皮膚のシワに沿って優しく伸ばします。
- ステロイド外用薬
- 湿疹化して炎症や強いかゆみがある場合に、炎症を抑える目的で使用されます。
- 医師の指示に従い、適切なランクの薬剤を適切な期間使用することが重要です。
- 症状が改善したら、保湿剤のみのケアに切り替えていきます。
- 抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の内服
- かゆみが強い場合には、かゆみを抑えるために内服薬が処方されることもあります。
看護のポイント
スキンケア指導・実践
- 入浴・清拭時の注意
- お湯の温度は38〜40℃のぬるめに設定します。
- 石鹸やボディソープは、弱酸性で保湿成分の入ったものを使い、よく泡立てて手で優しく洗うよう指導します(「ゴシゴシ洗い」は厳禁!)。
- タオルで水分を拭き取る際は、押さえるように優しく拭き取ります。
- 入浴・清拭後はすぐに保湿剤を塗布! これを徹底するだけでも大きく改善します。ケアの一連の流れとして習慣づけましょう。
環境調整
- 湿度管理
- 乾燥する季節は、加湿器を使用したり、濡れタオルを室内に干したりして、室内の湿度を50〜60%に保つように工夫します。
- 衣類の選択
- 肌に直接触れる下着は、チクチクする化学繊維を避け、吸湿性の良い綿素材などを選びます。
生活指導
- 水分補給の推奨
- 脱水は皮膚の乾燥に直結します。こまめな水分摂取を促しましょう。
- 栄養指導
- 皮膚の健康を保つために、バランスの取れた食事の重要性を伝えます。
- 掻破行動の防止
- 爪を短く切り、やすりで滑らかにしておきます。
- かゆみが強い時は、冷たいタオルで冷やす(冷罨法)と一時的にかゆみが和らぐことを伝えます。
- 就寝時に手袋を着用することも有効です。
アセスメントと多職種連携
- 皮膚の状態観察
- 発赤、浸出液、掻き傷の有無など、皮膚の状態を日々観察し、記録します。悪化の兆候を見逃さないことが大切です。
- かゆみの程度の評価
- 「夜眠れますか?」など、具体的な質問を通してかゆみがQOLに与える影響をアセスメントします。
- 薬剤の効果と副作用の確認
- 処方された外用薬や内服薬が適切に使用されているか、効果はどうか、副作用は出ていないかを確認します。
- 医師・薬剤師との連携
- 観察した皮膚の状態や患者さんの訴えを医師に正確に報告し、治療方針の検討につなげます。薬剤の塗り方や選択について、薬剤師に相談することも有効です。