透析とは|原理から導入、合併症、看護のポイントまで徹底解説

透析は、腎臓の機能が低下した患者さんの生命を維持するために不可欠な治療法です。看護師として、透析患者さんのケアに携わる機会は病棟・外来を問わず多くあります。
この記事では、臨床で自信を持って患者さんと向き合えるよう、透析の原理から対象疾患、導入方法、そして最も重要な看護のポイントまで、網羅的に解説します。
目次
透析とは?腎臓の代わりをする治療
透析療法とは、機能が著しく低下した腎臓に代わって、血液中から老廃物や余分な水分を取り除き、電解質のバランスを整え、血液をきれいにする治療法です。あくまで腎臓の機能を「代替」する治療であり、腎臓そのものを治す治療ではありません。
透析の2つの主な種類
透析には大きく分けて血液透析(HD)と腹膜透析(PD)の2種類があります。
血液透析(HD) | 腹膜透析(PD) | |
---|---|---|
場所 | 主に病院やクリニック | 主に自宅 |
時間・頻度 | 1回4〜5時間、週2〜3回 | 毎日、1日数回のバッグ交換または夜間睡眠中 |
原理 | ダイアライザ(人工腎臓)を介して血液を浄化 | 自身の腹膜を利用して透析液を介して浄化 |
特徴 | 医療スタッフが管理、確実な除水・物質除去 | 通院負担が少ない、残存腎機能が保たれやすい |
透析の対象疾患
透析が必要となるのは、腎臓の機能が正常の15%以下に低下した末期腎不全(ESKD)の状態です。末期腎不全に至る原因疾患には以下のようなものがあります。
糖尿病性腎症
日本で透析導入の原因として最も多い疾患です。長期間の高血糖により腎臓の血管が障害されます。
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慢性糸球体腎炎
腎臓の糸球体に慢性的な炎症が起こる疾患の総称です。
腎硬化症
高血圧や加齢による動脈硬化が原因で、腎臓の血管が硬くなり機能が低下します。
多発性のう胞腎
遺伝性の疾患で、腎臓に「のう胞」と呼ばれる液体がたまった袋が多数でき、徐々に腎機能が低下します。
透析の導入方法
透析を始める前には、血液を体外に取り出し、きれいにしてから体内に戻すための「バスキュラーアクセス」を作成する手術が必要です。
- 自己血管内シャント(AVF)
- 最も一般的に用いられる方法です。手首付近の動脈と静脈を手術で直接つなぎ合わせ、動脈の血流を直接静脈に流すことで、穿刺しやすく十分な血流量を確保できる太い血管(シャント血管)を作ります。通常、作成から使用開始まで数週間〜数ヶ月かかります。
- 人工血管内シャント(AVG)
- 自己血管が細いなどの理由でAVFが作れない場合に、人工血管を用いて動脈と静脈をつなぎます。
- 長期留置カテーテル
- シャントの作成が困難な場合や、シャントが成熟する前に緊急で透析が必要な場合に、首や胸、足の付け根の太い静脈にカテーテルを留置します。
腹膜透析(PD)の場合は、腹部に「PDカテーテル」を留置する手術を行います。
透析前後の看護のポイント
透析前の看護
- 体重測定
- ドライウェイト(DW: 透析後の目標体重)と比較し、今回の透析での除水量を決定するための最も重要な情報です。
- バイタルサイン測定
- 血圧、脈拍、体温を測定します。特に血圧は、透析中の血圧低下を予測する上で重要です。
- シャントの観察
- 視診: 発赤、腫脹、出血、狭窄の有無を確認します。
- 触診: スリル(シャント血管のザーザーという振動)を確認します。スリルが弱い、または触れない場合は閉塞の可能性があります。
- 聴診: 聴診器を当て、シャント音(連続的な低い音)を確認します。音が弱まったり、途切れたり、高くなったりしていないか観察します。
- 全身状態の観察
- 浮腫: 顔面(眼瞼)、下腿、足背などの浮腫の有無と程度を確認します。
- 自覚症状: 倦怠感、食欲不振、掻痒感、息苦しさなどの有無を確認します。
- 内服薬の確認
- 透析で除去されてしまう薬剤(一部の降圧薬、抗生剤など)は、透析後に内服することがあります。医師の指示を確認します。
透析後の看護
- 体重測定
- 除水量が適切であったか、DWが達成できたかを確認します。
- バイタルサイン測定
- 特に血圧低下に注意が必要です。起立性低血圧も起こりやすいため、ベッドから起き上がる際はゆっくりと行ってもらうよう指導します。
- 穿刺部の止血確認
- 穿刺部からの出血や内出血がないか確認します。止血バンドを巻いている場合は、締め付けが強すぎてシャント血流を妨げていないか、指先の冷感やしびれがないかも確認します。
- 全身状態・自覚症状の確認
- 透析後の倦怠感、頭痛、足のつり(こむら返り)などがないか確認します。
- 意識レベルの変化にも注意します。
- 食事・水分摂取の確認
- 透析後は食事が開始されます。食事量や水分摂取状況を確認します。
透析の合併症とシャント管理
透析中の急性合併症
- 血圧低下
- 最も頻度の高い合併症。除水による循環血液量の減少が主な原因です。症状(あくび、冷や汗、嘔気)の出現に注意し、異常時はすぐにスタッフへ報告するよう患者に指導します。
- 筋痙攣(こむら返り)
- 急速な除水による電解質や循環血漿量の変化が原因です。
- 不均衡症候群
- 透析導入期や、状態が不安定な患者に起こりやすいです。血液中の尿素などが急激に除去されることで、血液と脳の浸透圧差が生じ、脳浮腫をきたします。頭痛、悪心・嘔吐、意識障害などの症状に注意が必要です。
日常生活におけるシャント管理(患者指導)
シャントは透析患者の「命綱」です。患者自身に以下の点を守ってもらうよう、繰り返し指導することが重要です。
- 清潔の保持
- シャント部分は清潔に保ち、感染を防ぐ。
- 圧迫・閉塞の回避
- シャント側の腕で重い物を持たない。
- 腕時計やきつい袖の服を避ける。
- シャント側の腕で血圧測定や採血をしない。
- シャント側の腕を枕にして寝ない。
- 自己観察
- 毎日シャントのスリルや音を確認し、異常があればすぐに病院に連絡するよう指導する。