褥瘡について

褥瘡について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説

あずかん

褥瘡って、実は「観察力がそのまま患者さんの予後に直結する」という意味で、看護師の実力が一番試される領域だと思っています。バイタルサインのように数値でパッと異常が出るわけじゃない。「なんとなく肉芽の色が悪い気がする」「滲出液の匂いがいつもと違う」——そういう微妙な変化に気づけるかどうかが、感染の早期発見、ひいては敗血症への進展を防げるかどうかに関わってきます。

病棟でも訪問看護でも、褥瘡ケアに関わらない看護師はいないと言っていいくらい、どの現場でも遭遇する疾患です。この記事では、教科書には書いていない「経験から来る観察のコツ」を中心に、後輩の皆さんに伝えたいことをまとめてみました。


目次

サクッと復習!褥瘡の病態・原因・症状・治療

褥瘡は、身体に加わった外力(圧迫とずれ力)が、骨突出部の軟部組織を阻血状態にし、組織が不可逆的な変化を起こした状態です。日本褥瘡学会は近年「圧迫創傷」という表現も併用していますが、臨床では今も「褥瘡」という呼称が主流ですね。

【発生機序】
毛細血管圧(約32mmHg)を超える外力が持続的に加わることで、組織の虚血・再灌流障害が起こり、細胞レベルでの壊死に至るというのが基本の考え方です。これにずれ力(せん断力)が加わると、血管が引き伸ばされてさらに阻血が助長されるため、単純な体位変換だけでなく、ずれの排除(ポジショニング)が重要になってきます。

【好発部位】
仙骨部、尾骨部、坐骨結節部、踵骨部、大転子部など、骨突出部に集中します。リスク因子としては、低栄養(低アルブミン血症)、皮膚の湿潤(失禁関連皮膚炎:IAD)、知覚・認知機能の低下、活動性・可動性の低下、摩擦・ずれが代表的で、これらはブレーデンスケールの評価項目とも重なっています。

【重症度分類】
DESIGN-R®2020(日本褥瘡学会)を用いるのが国内標準で、Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)、Pocket(ポケット)の7項目で経時的に評価します。

【治療】
局所治療(デブリードマン、創傷被覆材の選択、外用薬)と、全身管理(栄養療法、体圧分散、原疾患のコントロール)を両輪で進めるのが基本方針です。難治性・深部感染を伴う場合は、形成外科的な外科的デブリードマンや皮弁形成術が検討されることもあります。


観察ポイント&根拠

観察項目観察ポイント根拠・予測
創部の色調(肉芽組織の色)肉芽組織が鮮紅色〜赤色か、白色〜灰白色に変化していないかを、毎回同じ照明環境(自然光かライトか)で比較する。写真記録の際は色調が正確に写る距離・角度を固定する健全な肉芽組織は血流が豊富で鮮紅色を呈する。色調が白色・灰白色に変化する場合、血流低下や過度な湿潤環境、感染による炎症性変化を示唆する。脆弱で易出血性の肉芽(触れるとすぐ出血する)は、感染や過剰な湿潤を疑うサイン
滲出液の量・性状・臭気ガーゼ交換時、滲出液を実際にガーゼに吸わせて色を確認し、「漿液性」「淡血性」「膿性」のどれに該当するか言語化する。臭気の有無も必ずメモする。前回のドレッシング材の重量変化(吸水量)も参考にする漿液性から膿性への変化は、細菌感染が進行しているサイン。臭気を伴う場合は嫌気性菌感染を疑う必要がある。滲出液が急に増加した場合は、創部の炎症反応の増悪、あるいはポケット内に貯留していた滲出液が排出された可能性を考える
創周囲皮膚の状態(発赤・浸軟・硬結)創縁から外側2〜4cm程度の範囲を触診し、発赤が創縁に限局しているか、周囲に広範囲に及んでいるかを境界線としてマーキングする。硬結(熱感を伴う板状の硬さ)の有無も触知する創周囲の発赤が拡大し、硬結・熱感を伴う場合は、蜂窩織炎への移行を疑うサイン。単なる炎症反応と、深部感染へ進展しているサインを区別するために、発赤の範囲を経時的に記録して比較することが重要
ポケットの深さ・方向ゾンデや綿棒を用いて、創縁のどの方向に、何cmのポケットが形成されているかを時計方向(12時・3時・6時・9時)で記録する。前回の記録と比較して、ポケットが拡大していないかを必ず確認するポケットは皮下組織の壊死や、圧・ずれの持続によって創腔が拡大した状態。ポケット内は嫌気性環境になりやすく、感染の温床になる。方向性を記録することで、次回の観察者が同じ基準で評価でき、悪化の早期発見につながる
体温・炎症反応(CRP・WBC)体温の日内変動パターンを経時的に見る(微熱が続くだけでなく、急な発熱がないか)。血液データはCRP・WBCの推移を、創部の視診所見とセットで評価する褥瘡に伴う感染が進行すると、局所の炎症所見に加えて全身性の炎症反応(SIRS基準に該当する所見)が出現することがある。創部所見は落ち着いているのにCRPだけ上昇している場合、他の感染巣(尿路感染、肺炎等)の合併も念頭に置く必要がある
疼痛の有無と性質安静時痛か、処置時痛かを区別して問診する。認知症等で言語的訴えが難しい患者さんには、表情(しかめ面)、体動、発声のパターンから疼痛サインを読み取る(Abbey Pain Scale等の活用も検討)褥瘡は本来、神経障害や知覚鈍麻を背景に発生することが多いため、疼痛を訴えない、あるいは訴えられない患者さんが多い。「痛みがない=軽症」ではなく、疼痛の訴えがないこと自体が知覚障害の存在を示すサインとして捉える視点が必要
栄養状態(Alb、Hb、体重推移)血清アルブミン値と総蛋白、Hbの推移をトレンドで見る。体重は浮腫の影響を除いた実質的な変化として評価し、食事摂取量(実測またはIN-OUTバランス)と併せて確認する低アルブミン血症は、創傷治癒に必要なコラーゲン合成やタンパク質合成の材料不足を意味し、褥瘡の治癒遅延だけでなく新規発生のリスク因子でもある。創部だけを診て栄養状態を見ないと、いくら局所ケアを頑張っても治らない、という経過をたどることがある
体圧分散状況とポジショニングエアマットの設定圧、患者さんの体重に対する適合性を確認する。体位変換時は実際に骨突出部に手を入れて圧迫の有無を触知し、ずれ力がかかっていないか(頭側挙上時の体幹のずり下がり)を評価するエアマットは「入っていれば安心」ではなく、体重設定や患者さんの体格に合っていなければ底つきを起こす。頭側挙上30度を超えると仙骨部へのずれ力が急増するため、ギャッチアップの角度と、その際の体幹のずれの有無をセットで評価する必要がある

もし患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?

傷、もう治らないんじゃない…

褥瘡ケアをしていると、こういう言葉をかけられること、ありませんか。特に難治性の褥瘡で治療期間が長引いている患者さんからは、この手の発言がよく出てきます。

言葉の裏のニード
① 身体的な苦痛のサイン
処置のたびに痛みや不快感を感じていて、それが「治らない」という絶望感に変換されている場合があります。この場合は、処置前の鎮痛薬投与のタイミングが適切か、ドレッシング材が創部に固着して剥離時に疼痛を増強させていないかを振り返る必要があります。

② 経過が見えないことへの不安
褥瘡の治癒は数週間〜数ヶ月単位でゆっくり進むため、患者さん自身は「昨日と今日で何が変わったのか」が実感しにくいです。数値化されない不安、というのが実際のところだと思います。

③ 自己効力感の低下
「自分の体が悪いから治らないんだ」と、褥瘡の発生・遷延を自分自身の落ち度のように捉えてしまっている場合もあります。

対応の具体例としては、こんな形が考えられます。

まず、処置の手を止めて、患者さんの目線に合わせて座り、「治らないんじゃないかって、不安になりますよね」と、否定せずに気持ちを受け止めます。そのうえで、「実は先週と比べて、ポケットの深さが2cmから1.2cmまで浅くなってきているんです」というように、DESIGN-R®のスコアや実測値といった客観的な変化を、具体的な数字で伝えるのが効果的です。

「治ってますよ」という抽象的な励ましよりも、「肉芽の色が、先週より赤みが増してきていますね」「滲出液の量も減ってきていますよ」といった、視覚的・数値的な根拠を伴った説明のほうが、患者さんの実感につながりやすいと感じています。

また、痛みが強い訴えの背景にある場合は、「今日は処置の前に痛み止めを使ってから始めましょうか」と、次回以降の対応を一緒に決めていくことで、処置に対するコントロール感を患者さんに取り戻してもらうというアプローチも有効です。


現場で差がつく看護のコツ

工夫・アイデア期待できる効果
ドレッシング材を剥がす前に、生理食塩水で軽く湿らせてから剥離する創部への固着を減らし、剥離時の疼痛と新生上皮・肉芽組織の物理的損傷を最小限にできる。剥がす際の「バリッ」という感覚を減らすことは、患者さんの処置への恐怖心の軽減にも直結する
写真記録は、必ず同じ距離・角度・体位で撮影する(定規やスケールを一緒に写し込む)経時的な比較の精度が格段に上がる。「なんとなく良くなった気がする」ではなく、客観的に大きさ・色調の変化を追えるため、カンファレンスでの情報共有もスムーズになる
体位変換のたびに、除圧クッションの位置がずれていないかを触って確認する癖をつけるクッションは時間経過とともにずれることが多い。「入れたから終わり」ではなく、実際に骨突出部に指を入れて圧迫の有無を確認することで、圧迫の見落としを防げる
ポケットの深さを測る際、ゾンデを入れる角度を毎回統一する(垂直に、無理な力を入れない)測定者によって数値がばらつくと、悪化しているのか改善しているのか判断を誤る。測定の再現性を高めることが、正確な評価につながる
創部の匂いを嗅ぐタイミングを、ドレッシング材を開けた直後の一瞬に限定する時間が経つと外気と混ざって臭気が分かりにくくなる。開放直後の匂いが最も情報量が多いため、そのタイミングを逃さないようにする
栄養士・NST(栄養サポートチーム)への相談は、Alb値が下がってからではなく、食事摂取量の低下傾向が見えた時点で早めに声をかける低栄養状態になってから介入しても治癒までに時間がかかる。摂取量低下の初期段階で介入できれば、褥瘡の悪化を未然に防げる可能性が上がる

新人さんが陥りやすいミスへの対策

「DESIGN-R®のスコアをつけることがゴール」になってしまう、これが新人さんに一番多い落とし穴だと思います。スコアリングは大事な共通言語ですが、スコアをつけて満足してしまうと、「なぜこの数値になったのか」という病態生理の視点が抜け落ちてしまうんですよね。

新人のうちは、「E3(滲出液多量)だから吸収力の高いドレッシング材に変更」というように、スコアと処置方法を機械的に対応させるだけになりがちです。でも本当は、「なぜ滲出液が急に増えたのか。感染が進行しているのか、それとも体位変換の頻度が落ちて圧迫が強くなっているのか」という背景の原因を考える視点が抜けると、対症療法止まりになってしまいます。

もう一つ、新人さんがよく戸惑うのが、「肉芽の色が良いのか悪いのか、自分の目に自信が持てない」という悩みです。これは経験を積むしかない部分もあるのですが、「今日の色を、必ず前回の写真と並べて比べる」という癖をつけると、判断の精度がぐっと上がります。単独で「これは良い色かな、悪い色かな」と悩むより、比較対象があるだけで判断がずっと楽になります。

また、疼痛を訴えない患者さんに対して「痛くなさそうだから大丈夫」と判断してしまうのも、新人さんによくある誤解です。褥瘡は神経障害を背景に持つ患者さんに多く発生するため、「訴えがない」ことは「痛みがない」ことの証明にはならないんですよね。表情や体動から読み取る、という視点を持てるようになると、アセスメントの幅がぐっと広がりますよ。

最後にもう一つ。「褥瘡は創部だけ診ていても治らない」——これは私が新人時代、先輩によく言われた言葉です。栄養状態、体圧分散、原疾患のコントロール、そして患者さん自身の気持ち。創部というのは、その人の全身状態が映し出された結果なんです。処置の手を動かしながらも、常に「この人の身体全体で何が起きているのか」を考える視点、これが褥瘡ケアの奥深さだと思います。


参考資料

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