大腿骨近位端骨折について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「また大腿骨か、ルーチンワークだな」なんて思っていませんか?
実はこの疾患、高齢者のADLを一気に奪うだけでなく、術後合併症やせん妄のリスクが非常に高く、「看護師のアセスメント能力が患者さんの予後(歩いて帰れるか、寝たきりになるか)を左右する」と言っても過言ではありません。
今回は、教科書的な知識だけでなく、「現場で使える」視点と技術を紹介します。今日からのケアに、ぜひ一つでも取り入れてみてください。
サクッと復習!疾患の概要
まずは基本を押さえましょう。大腿骨近位端骨折は、解剖学的な位置によって大きく2つに分類され、治療方針やリスク管理が異なります。
大腿骨頚部骨折(Intracapsular fracture:関節包内骨折)
特徴: 関節包の内側での骨折。骨膜がなく、血流(特に内側大腿回旋動脈)が乏しいため、骨癒合が得られにくいのが特徴です。
リスク: 偽関節、大腿骨頭壊死。
治療: 転位型(Garden分類 ステージⅢ・Ⅳ)では、人工骨頭置換術(BHA)や人工股関節全置換術(THA)が第一選択。非転位型では骨接合術(CCHなど)も選択されます。


大腿骨転子部骨折(Extracapsular fracture:関節包外骨折)
特徴: 関節包の外側、海綿骨が豊富な部位での骨折。血流が豊富なため骨癒合はしやすいですが、その分出血量が多くなりがちです。
リスク: 受傷直後の循環血液量減少性ショック、術後の広範囲な皮下出血、貧血。
治療: 基本的には骨接合術(CHS、γ-nail、PFNAなど)が行われます。
共通症状
鼠径部痛、股関節可動域制限、患肢の短縮、外旋位(転子部骨折で顕著)など。
観察ポイント&根拠
バイタル測定時、何を観察していますか?
私は常に「DVT(深部静脈血栓症)とPTE(肺血栓塞栓症)の兆候」そして「隠れた貧血」を探っています。
下肢の左右差と皮膚色・温感(DVTの早期発見)
ただ「腫れてないか」見るだけでは甘いです。
- 観察ポイント: 腓腹部の把握痛(Homans徴候)だけでなく、健側と比較して患側(あるいは両側)の皮膚色が暗赤色になっていないか、表在静脈の怒張がないかを確認します。
- 根拠: 整形外科術後、特に下肢の手術はVirchowの3主徴(血液凝固能亢進、血流停滞、血管内皮障害)が揃うDVTのハイリスク状態です。
- ワンポイント: 可能ならば、術後1日目から大腿・下腿周径をメジャーで計測し、カルテに数値で残します。「なんとなく太い」ではなく「昨日より右大腿が2cm増大している」というデータがあれば、エコー検査の必要性を医師へ具体的に提案できます。
安静時SpO2と呼吸数の微細な変化(PTEの予兆)
- 観察ポイント: SpO2が98%から93%へ低下した際、「プローブがずれたかな?」で済ませてはいけません。同時に呼吸数が20回/分以上に上昇していないか、患者さんが「胸苦しさ」や「不安感」を訴えていないかを確認します。
- 根拠: 離床開始時(初回歩行時など)に血栓が飛び、PTEを発症するケースが多いです。SpO2低下はPTEの初期サインである可能性があります。
- ワンポイント: 離床時は必ずパルスオキシメーターを装着したまま行い、変動をモニタリングします。
術後Hb値とドレーン排液の性状(術後貧血の評価)
術後の血腫を予防し腫脹による疼痛の軽減・総武の感染予防・良好な創治癒促進のためにドレーンが入ってくることがあります。
- 観察ポイント: ドレーン排液が血性から淡血性、漿液性へと移行しているか。また、採血データのHb値だけでなく、立ちくらみや結膜の蒼白といった臨床症状と合わせて評価します。
- 根拠: 特に転子部骨折は受傷時からの内出血に加え、髄内釘挿入時の出血も含めると総出血量が1000mlを超えることも珍しくありません。数値上の貧血が進んでいなくても、脱水と相まって循環動態が不安定になることがあります。
もし患者さんが「トイレに行きたい」と言ったら?
術後数日目、バルーンカテーテル抜去後に、認知機能が少し低下している80代の女性患者さんが、ナースコールで「トイレに行きたいから連れて行って」と訴えたとしましょう。
この時、単に「まだ歩けないからベッド上でポータブルトイレを使ってください」と伝えるだけでは、患者さんの自尊心を傷つけ、不穏やせん妄を誘発する可能性があります。
対応アクションと会話例
- まずは肯定し、状況を共有する
- 「トイレに行きたいんですね。教えてくれてありがとうございます。(ここで目線を合わせる)手術の傷がまだ痛むと思うので、今日は無理せずベッドの横にあるトイレ(ポータブル)を使いましょう。」
- 羞恥心への最大限の配慮(環境調整)
- カーテンを隙間なく閉めるのは当然ですが、「外から見えないようにしっかり閉めますね。私がすぐ外にいるので、終わったらナースコールを押してください。ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけ、プライバシー空間を確保します。
- 成功体験への誘導
- 排泄後には、「上手にできましたね。傷の痛みが落ち着いたら、リハビリの先生と歩くトイレ練習も計画しましょうね」と、未来の目標(歩行してのトイレ)を共有していきます。
現場で差がつく看護のコツ・ポイント
教科書には「良肢位保持」と書いてありますが、現場ではどう具体的に実践するかが腕の見せ所です。
術後ポジショニングの「タオル一枚」の工夫
特に人工骨頭置換術(BHA)後は脱臼予防が必須ですが、ただ外転枕を挟むだけでは患者さんは苦痛です。
- 工夫: 患側の膝下だけでなく、アキレス腱の下にハンドタオルを折りたたんで挿入し、踵を少し浮かせます。
- 効果: 踵骨部の褥瘡予防になるだけでなく、腓腹筋の緊張が緩和され、疼痛軽減につながります。また、患肢全体のアライメント(良肢位)が崩れにくくなります。
疼痛コントロールは「先回り」が鉄則
「痛いと言われたら痛み止めを使う」のは受動的です。
- 工夫: リハビリの時間、体位変換の時間、清拭の時間を把握し、その30分〜1時間前に鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を投与できるよう、医師と事前に指示の相談をしておきます。
- 効果: 血中濃度が上がった状態でケアやリハビリ介入ができるため、動作時痛による苦痛が減り、離床意欲の低下を防げます。痛みが強いと、それだけでせん妄のリスクファクターになりますからね。
せん妄予防のための「リアリティ・オリエンテーション」
高齢者は入院環境の変化で容易にせん妄状態になります。
- 工夫: 訪室のたびに「〇〇さん、おはようございます。今日は1月2日、いい天気ですね」と日時や天候をさりげなく伝えます。また、日中はカーテンを開けて日光を入れ、夜は消灯する。この「昼夜のリズム作り」を徹底します。
- 効果: 睡眠覚醒リズムを整えることが、最も薬を使わない効果的なせん妄予防策です。眼鏡や補聴器を日中しっかり装着してもらい、感覚入力を維持することも忘れずに行います。
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人の頃、やってしまう失敗、それは「患者さんの『大丈夫』を鵜呑みにしてしまうこと」です。
認知症のないしっかりした患者さんが、術後初めての歩行器歩行で「全然痛くない、大丈夫よ」とおっしゃっていたため、安心して見守っていたのですが、トイレに入った瞬間、緊張が解けたのか膝折れしそうになり、ヒヤッとした経験がありませんか?
高齢の患者さんは、私たちに迷惑をかけまいと痛みを我慢したり、自分の能力を過大評価したりすることがあります(遠慮と強がり)。
言葉での「大丈夫」と、身体的な反応(顔をしかめる、冷や汗をかく、呼吸が早くなる)が一致しているか、常に「非言語的サイン」を観察してください。
「転ばせない」ことだけが看護ではありませんが、転倒は患者さんの自信を一瞬で奪います。「もしかしたら、急に力が入らなくなるかもしれない」という予測を持ち、常に半歩後ろで骨盤を支えられる位置に立つ。この「最悪を想定したポジショニング」が、あなたと患者さんを守ります。