血管性認知症について|疾患の概要から看護のポイントまで徹底解説
あずかん「昨日はしっかり日付を答えられたのに、今日は全く分からない」「計算はできるのに、着替えの手順が急にできなくなった」——脳血管疾患の既往がある高齢患者さんを受け持ったとき、こうした症状の「まだら感」に戸惑った経験はありませんか?
血管性認知症は、脳神経外科や神経内科病棟だけでなく、脳梗塞後のリハビリテーション病棟、循環器内科、さらには一般病棟での高齢患者さんの入院中せん妄との鑑別など、実は様々な場面で関わってくる疾患です。
アルツハイマー型認知症との違いを理解しているかどうかで、日々の観察や声かけの質が大きく変わってきます。今日はこの疾患の特徴と、現場で活かせる観察の視点を紹介していきます。
サクッと復習!疾患の概要
血管性認知症(VaD:Vascular Dementia)は、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)によって生じた脳の器質的病変が原因で、認知機能障害を来す認知症の総称です。認知症の中でもアルツハイマー型認知症に次いで頻度が高く、両者が合併する混合型認知症も臨床では多く見られます。
病型は病変部位によって大きく以下のように分類されます。
| 病型 | 特徴 |
|---|---|
| 多発梗塞性認知症 | 複数の脳梗塞(特に皮質梗塞)が蓄積し、階段状に認知機能が悪化する |
| 皮質下血管性認知症(Binswanger型など) | 大脳白質病変やラクナ梗塞の多発により、遂行機能障害や歩行障害が目立つ |
| 単一病変性認知症 | 視床や前脳基底部など、認知機能に重要な単一部位の梗塞で急性発症する |
主な症状は、記憶障害に加えて、遂行機能障害(計画を立てて物事を進める能力の低下)、注意障害、感情の易変性(感情失禁)、歩行障害、構音障害などが挙げられます。
特徴的なのが、症状の出現・進行パターンで、「まだら認知症」と呼ばれる、日によって・場面によって症状の程度が変動する点がアルツハイマー型認知症との鑑別ポイントになります。また、病変部位に応じて片麻痺、感覚障害、仮性球麻痺などの局所神経症候を伴うことも特徴的です。
治療の中心は、脳血管障害の再発予防(抗血小板薬・抗凝固薬の内服、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの危険因子の管理)です。認知機能そのものに対する根本的治療薬は確立されておらず、リハビリテーションによる機能維持・生活の質の維持が重要な位置づけとなります。
観察ポイント&根拠
| 観察項目 | 観察ポイント | 根拠・予測 |
|---|---|---|
| 認知機能の日内変動・日差変動 | 同じ質問(日付、場所、簡単な計算)を時間帯を変えて確認し、日によって・時間帯によって回答の精度に差がないか記録する | まだら認知症の特性上、変動の有無自体がVaDを疑う根拠となる。逆に、変動なく一貫して進行する場合はアルツハイマー型を疑う視点も持てる |
| 突発的な症状変化 | 普段と比較して急激な意識レベル低下、片麻痺、構音障害、嚥下障害の新規出現がないか確認する | 新たな脳血管障害(再梗塞・再出血)の発症を疑うサインであり、SBARで医師へ即座に報告できる準備をしておく必要がある |
| 遂行機能・注意機能 | 更衣や整容など、複数の手順を要する動作の際に、順序の混乱や中断がないか観察する | 遂行機能障害は皮質下血管性認知症で目立ちやすく、動作の「途中で止まる」パターンから病変部位を推測する視点につながる |
| 歩行状態 | すり足歩行、小刻み歩行、方向転換時のふらつきの有無を確認する | 皮質下病変(特にBinswanger型)では歩行障害が前景に立つことが多く、転倒リスクの評価に直結する |
| 感情面の変化 | 些細な出来事で急に涙を流す、笑う、怒るなど、感情表出の切り替えが不自然に急激でないか観察する | 感情失禁は仮性球麻痺の症状の一つであり、皮質延髄路の障害を反映する所見として捉えられる |
| 嚥下機能 | 食事中のむせ、湿性嗄声、食後の口腔内残渣の有無を確認する | 仮性球麻痺による嚥下反射の遅延・低下は誤嚥性肺炎の前兆となりやすく、食事形態の見直しが必要になるサインとして重視する |
もし患者さんからこう言われたら、あなたはどうする?
血管性認知症の患者さんが、認知機能の変動を自覚した際によく口にする言葉に「さっきまで分かってたのに、今は何も分からなくなってしまって……自分がおかしくなったんでしょうか」というものがあります。
ここで安易に「大丈夫ですよ、気にしないでください」と流してしまうと、患者さんの不安の根本には応えられません。対応としては、
「さっきまでできていたことが急にできなくなると、本当に不安になりますよね。実はこの病気の特徴の一つに、できたりできなかったりが日によって、時間によって変わることがあるんです。今の状態がずっと続くわけではなく、また戻ることもありますよ」
と、症状の変動が病態の特性であり、患者さん自身の問題ではないことを説明すると、患者さんは「自分がおかしくなった」という自己否定的な捉え方から少し距離を置きやすくなります。その上で、今できていることに目を向けた声かけ(「先ほどのお話、しっかり覚えていらっしゃいましたね」など)を添えると、安心感を抱きやすいですよ。
現場で差がつく看護のコツ
| 工夫・アイデア | 期待できる効果 |
|---|---|
| 認知機能の変動を記録する専用のチェックシートを作成し、時間帯別(朝・昼・夕・夜)に簡単な質問への回答状況を記録する | 「まだら」の実態を客観的に可視化でき、医師への報告やケアプラン見直しの根拠資料になる |
| 更衣や整容の介助時は、動作を一つずつ区切って声をかける(「まず右手をこちらに」「次にボタンを」など) | 遂行機能障害により複数の指示を一度に処理できない患者さんでも、動作の中断を減らせる |
| 感情失禁が見られた際は、その場で否定せず「今、悲しい気持ちになったんですね」と一度受け止める言葉をかけてから、話題を切り替える | 感情の波を無理に抑えようとせず、自然な収束を促すことができ、患者さんの心理的な混乱を最小限にできる |
| 歩行障害がある患者さんの病室では、日中と夜間で照明の明るさに差をつけすぎず、常に一定の視認性を保つ | 認知機能の変動と視覚情報の変化が重なると混乱を助長しやすいため、環境刺激を一定に保つことで安定した歩行を支援できる |
| 嚥下機能の変動が疑われる患者さんは、状態が良い時間帯を見極めて食事時間を調整できないか、多職種カンファレンスで提案する | 一律の食事時間ではなく、認知機能・嚥下機能が比較的安定している時間帯に合わせることで、誤嚥リスクを下げられる |
新人さんが陥りやすいミスへの対策
新人さんがよくやってしまうのが、「昨日はしっかりしていたのに、今日はぼんやりしている」という変化を見て、「せん妄が出現したのでは」「急変では」と過度に心配してしまうことです。もちろんせん妄や新規の脳血管障害の可能性は常に除外すべきですが、血管性認知症の患者さんの場合、これが病態そのものの特性(まだら認知症)である可能性も十分にあります。
このことを知らないと、日々の変動のたびに動揺してしまい、本当に注意すべき急性の変化(片麻痺の新規出現や構音障害の急激な悪化など)とのメリハリがつけにくくなってしまいます。「いつもと比べてどう違うか」という視点だけでなく、「この患者さんの変動パターンとして想定される範囲内か」という視点を併せて持つと、判断に落ち着きが出てきます。
もう一つ、新人さんが混同しやすいのが「認知症だから、説明しても理解できないだろう」という思い込みです。血管性認知症は病変部位によって症状の出方が異なり、記憶障害が目立つ一方で、状況判断や感情面の反応は保たれているケースも多くあります。「認知症」という診断名だけで対応を一括りにせず、その患者さん個別の症状パターンを見極めてから声かけの内容を考える習慣をつけると、コミュニケーションの質が変わってきますよ。
まだら認知症という現象を最初に経験したとき、「本当にさっきまで会話が成立していたのに、なぜ急に」と戸惑う新人さんは多いです。この変動そのものが疾患の特徴であるという知識を持っているだけで、日々の観察に落ち着いて向き合えるようになると思いますよ。