尿毒症とは|病態から治療、看護のポイントまで徹底解説

尿毒症は、腎機能が著しく低下することにより、本来尿として体外に排泄されるべき老廃物や過剰な水分が体内に蓄積し、全身に様々な症状を引き起こす症候群です。末期腎不全の患者さんにみられる極めて重篤な状態で、適切な治療が行われなければ生命に関わります。この記事では、尿毒症の病態生理から看護のポイントについて詳しく解説します。
目次
尿毒症とは
尿毒症の核心は、腎機能の破綻にあります。腎臓は、単に尿を生成するだけの臓器ではありません。体液の恒常性(ホメオスタシス)を維持するために、以下のような極めて重要な役割を担っています。
- 老廃物の排泄: 血液をろ過し、クレアチニン、尿素窒素(BUN)などのタンパク質代謝産物を尿中に排泄します。
- 電解質バランスの調節: ナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどの電解質濃度を一定に保ちます。
- 体液量の調節: 体内の水分量をコントロールし、血圧を調整します。
- 酸塩基平衡の維持: 血液のpHを弱アルカリ性に保ちます。
- ホルモンの産生と活性化
- レニン: 血圧を調整するホルモン。
- エリスロポエチン: 赤血球の産生を促すホルモン。
- 活性型ビタミンD: カルシウムの吸収を助け、骨の健康を維持するホルモン。
腎機能が正常の30%以下に低下すると腎不全となり、さらに10%以下になると、これらの調節機能がほとんど働かなくなり、その結果以下の状態が引き起こされます。
- 尿毒素の蓄積
- 尿素、クレアチニン、尿酸などの老廃物が体内に蓄積し、全身の細胞機能を障害します。これらを総称して尿毒素と呼びます。
- 体液・電解質の異常
- 高カリウム血症: 不整脈や心停止のリスク。
- 高リン血症・低カルシウム血症: 骨がもろくなる腎性骨異栄養症や、血管の石灰化を引き起こします。
- 水分過剰: 浮腫(むくみ)、高血圧、肺水腫、心不全の原因となります。
- 代謝性アシドーシス
- 体内に酸が蓄積し、意識障害や不整脈を誘発します。
- ホルモン異常
- 腎性貧血: エリスロポエチン産生の低下による貧血。
- 腎性骨異栄養症: 活性型ビタミンDの低下による骨の異常。
これらの複合的な機能不全が、全身に多彩な症状を引き起こすのが尿毒症です。
尿毒症の原因
尿毒症は末期腎不全の状態であり、その原因は腎機能低下を引き起こすすべての慢性腎臓病(CKD)です。日本では、以下の疾患が主な原因となっています。
- 糖尿病性腎症
- 糖尿病の合併症として、高血糖が長期間続くことで腎臓の糸球体が障害される。現在、新規に透析導入となる患者の最も多い原因疾患である。
- 慢性糸球体腎炎
- 糸球体に慢性的な炎症が起こり、徐々に腎機能が低下する。IgA腎症などが代表的疾患である。
- 腎硬化症
- 高血圧や加齢が原因で腎臓の血管が動脈硬化を起こし、腎機能が低下する。高齢化に伴い増加傾向にある。
- 多発性のう胞腎
- 腎臓に多数ののう胞ができ、正常な腎組織を圧迫して腎機能が低下する遺伝性の疾患。
- その他
- 全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、薬剤による腎障害、慢性腎盂腎炎など。
尿毒症の症状
尿毒症の症状は全身のあらゆる臓器に現れます。
器官系 | 主な症状 |
---|---|
全身症状 | 全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、皮膚のかゆみ、体重減少 |
精神・神経系 | 集中力低下、記憶障害、不眠、いらいら感、頭痛。重篤化すると、羽ばたき振戦、意識障害、けいれん、尿毒症性脳症に至る。 |
循環器系 | 高血圧、動悸、息切れ、不整脈、胸痛。心不全や心膜炎(心タンポナーデのリスク)を起こすことがある。 |
呼吸器系 | 呼吸困難、肺水腫による湿性ラ音、クスマウル大呼吸(代謝性アシドーシスによる) |
消化器系 | 食欲不振、悪心・嘔吐、口の中のアンモニア臭(尿臭)、味覚異常、下痢、便秘、消化管出血 |
皮膚 | 強いそう痒感、乾燥、色素沈着(土気色の皮膚)、皮下出血、尿素霜(汗の中の尿素が結晶化し、皮膚表面に白い粉として現れる) |
血液系 | 腎性貧血による顔色不良、めまい、動悸。出血傾向(血小板機能の低下による)。 |
筋・骨格系 | 筋力低下、こむら返り、骨の痛み、関節痛(腎性骨異栄養症による) |
治療法・対症療法
腎代替療法
尿毒症の根本的な治療は、腎臓の機能を代替する腎代替療法です。
- 血液透析(HD)
- 体外に血液を取り出し、ダイアライザー(人工腎臓)を介して老廃物や余分な水分を除去し、浄化した血液を体内に戻す治療法です。
- 通常、週に3回、1回あたり4〜5時間かけて医療機関で行われます。
- 腹膜透析(PD)
- 患者自身の腹膜を透析膜として利用する方法です。腹部に留置したカテーテルから透析液を腹腔内に注入し、一定時間留置することで老廃物や水分を透析液側に移動させ、排液します。
- 在宅で行うことができ、血液透析に比べて時間的な制約が少ないのが特徴です。
- 腎移植
- 他者(ドナー)から提供された健康な腎臓を移植する治療法で、唯一の根治療法です。
- 生体腎移植と献腎移植があります。移植が成功すれば、透析から離脱し、食事や水分の制限も大幅に緩和されます。
対症療法
上記の腎代替療法と並行して、様々な症状を緩和するための対症療法も行われます。
- 薬物療法
- 降圧薬: 高血圧の管理
- リン吸着薬: 高リン血症の改善
- 活性型ビタミンD製剤: 低カルシウム血症と二次性副甲状腺機能亢進症の治療
- エリスロポエチン製剤・鉄剤: 腎性貧血の改善
- カリウム吸着薬: 高カリウム血症の管理
- 食事療法
- タンパク質、塩分、カリウム、リン、水分の制限が基本となります。患者の状態や透析方法によって内容は異なります。
看護のポイント
全身状態の観察とアセスメント
- バイタルサイン
- 血圧、脈拍、呼吸状態、体温を正確に測定し、変動に注意する。特に血圧と呼吸困難の有無は重要。
- 水分出納バランス
- IN(飲水量、輸液量)とOUT(尿量、排液量、不感蒸泄)を正確に把握し、体重の変動と合わせて評価する。急激な体重増加は水分過剰を示唆する。
- 尿毒症症状の観察
- 倦怠感、食欲、嘔気、皮膚のかゆみ、精神状態などの変化を注意深く観察し、早期に対応する。
- 検査データのモニタリング
- BUN、クレアチニン、電解質(特にK、P、Ca)、血液ガス、貧血のデータなどを経時的に評価し、異常の早期発見に努める。
腎代替療法の管理
- 血液透析(HD)患者の看護
- シャント管理: シャント狭窄・閉塞の兆候(スリル・血管音の減弱・消失、シャント肢の冷感や腫脹)がないか、毎日確認する。シャント肢での採血・血圧測定は禁忌。
- 透析中の管理: 血圧低下、不均衡症候群(頭痛、嘔気など)の出現に注意する。
- 体重管理: ドライウェイト(透析後の目標体重)の遵守を支援する。
- 腹膜透析(PD)患者の看護
- 腹膜炎の予防と早期発見: カテーテル出口部の清潔ケアと感染兆候(発赤、疼痛、排液の混濁)の観察が最も重要。
- 自己管理支援: 患者や家族が手技を正確に実施できるよう、教育的支援を継続的に行う。
安楽への援助とセルフケア支援
- 食事療法の支援
- なぜ制限が必要なのかを患者が理解し、主体的に取り組めるよう支援する。管理栄養士と連携し、具体的な調理法などをアドバイスする。
- そう痒感へのケア
- 皮膚の保湿(保湿剤の塗布)、掻破による皮膚損傷の予防、必要に応じた薬剤の使用。
- 倦怠感への配慮
- 活動と休息のバランスを考えた日常生活の調整を支援する。
精神的・社会的支援
- 不安や抑うつの傾聴
- 疾患や治療に対する不安、将来への絶望感など、患者の思いを傾聴し、共感的に関わる。
- 意思決定支援
- 治療法の選択や継続に関して、患者が自分らしい生活を送るために最善の選択ができるよう、必要な情報を提供し、自己決定を支える。
- 社会資源の活用
- 医療費助成制度(特定疾病療養受療制度、身体障害者手帳など)の活用を促し、医療ソーシャルワーカー(MSW)との連携を図る。